「方法論やフレームワーク」が実は使えない理由 ビジネスを面白くする「正解のないモヤモヤ」
楠木:だから若者ほど読書が必要なのです。本は事後において書かれています。自分の経験がなくても、一通りの深くて濃い経験をした人の本を読めば、疑似経験を獲得できる。少なくとも、そういうものだろうなと何となくイメージできるようになる。読書は太古の昔から、事後性を克服する最高の手段だと思います。
ただし、入り口のところでそそられない。やる気があって、いい仕事をしようという意識が高い人ほど、すぐに役立ちそうな気がする再現可能な法則やテンプレート、フレームワークに傾きます。
内田:理解しやすいし、それを当てはめると、自分でもできるのではないかと思ってしまいますよね。
方法論、フレームワークは人を狂わせる
内田:学生などから「コンサルティング会社で、どういうフレームワークをよく使うのですか」とよく聞かれます。例えば、SWOT(強み、弱み、機会、脅威)分析は有名なフレームワークですが、私はBCG(ボストン コンサルティング グループ)にいた25年間で1度も使ったことはありません。
それで答えが出てくるなら、コンサルティング会社はなくてもいい。分析結果から何を感じ取れるか大事で、そこはセンスだと言い切ると、みんながっくりしてしまうんです。
楠木:SWOTのいいところは、「はいよ」と渡すと、すぐに強み、弱み、機会、脅威に分ける作業ができること。ただ、こういうのは単なる「担当者の作業」です。戦略構想とは、似て非なるもの。
しかし、大きな会社の経営企画部門を見ると、朝から晩までSWOT分析をやっている「SWOTTER」がいる。不思議なのは、みんな賢いので、こんなことやっていても、いい発想や成功する戦略は出てこないだろうなと、うすうすわかっているんですね。わかっちゃいるけど、やめられない。寅さんの次には植木等が出てくる。たとえが古くて、この辺がわからない人も多いと思いますが。
内田:わかっているから、俺は正しいけれど、それを使いこなしていい戦略を導き出せない上司が駄目だなと思っているのでしょうね。
楠木:人間は意味がないとわかっていても、やってしまうことがあります。例えば、トータルで勝てないとわかっているけれども、パチンコが好きでやめられない。身体に悪いとわかっていても、フライドポテトを食べてしまう、というように、それが好きで仕方がない。これが植木等系の正統派「わかっちゃいるけど、やめられない」ですね。
それならまだ理解できるのですが、SWOTTERはSWOT分析が好きで好きでたまらないわけでもない。そもそもそれほど面白いものでもない。面白くもないし、結果につながらないとわかっていることを、なぜやるのか。それだけフレームワーク、ある種のスキル、方法論は人を惹きつけるものがある。