孤独死した50代警備員の部屋に見た残酷な孤立 男は誰にも助けを求められずに最期を迎えた

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時たまもよおす尿をゴミに寄りかかりながら小さなペットボトルに移すという日々が続いていたはずだと上東さんは指摘する。そうかと、思うと、私も胸が締めつけられた。2リットルの水を買って自宅に運ぶことすらできないほど、体力が衰えていたのだ。

桜の咲く公園が近い自宅から、花見客で賑わう笑い声を聞きながら、山田さんは何を思っただろうか。

山田さんの部屋は薄暗く、寒さもこたえたはず。電気代はわずかだったため、暖房もつけずに、毎日をしのいでいた。冬は凍えるような寒さが、じわじわと山田さんの体力を無残にも奪っていく。

そして最期、山田さんは極度に衰弱し、ひっそりとゴミの中で息絶えてしまった。

山田さん、そして、何も知らず残された両親のことを思うと胸がキリキリと痛む。

「ご遺族は息子さんの死を引きずり続けると思うんです。『なぜ一言話してくれなかったんだ』と。山田さんが最期を迎える前に、両親に何らかのメッセージを残し、それを読んでいることを願いますね。それさえできないほど彼が社会から追い込まれていたなら、この世の中や社会が腐っているのかもしれないね」

上東さんは物憂げな表情で、そう言った。孤独死の現場から見えるのは、社会から一度孤立すると、誰にも助けを求められずに崩れ落ち、命を落としてしまう現役世代たちの最期の姿だ。

現役世代に救いの手を

内閣府は、最新となる2019年度版の『高齢社会白書』を6月18日に閣議決定した。

この中にわずかだが、孤独死についてのデータがある。

東京23区内における一人暮らしで65歳以上の人の自宅での死亡者数は、平成29(2017)年に3333人。この数が、前年度の3179人を上回り、過去最多を記録したのだ。この白書からは、つまり高齢者に限っても、統計上、孤独死が増え続けていることが明らかになる。現に同白書によると、平成15(2003)年の1451件からほぼ右肩上がりで上昇を続け、現在は約2倍以上に増加している。

『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

また、同白書では、孤立死(誰にも看取られることなく亡くなった後に発見される死)を身近な問題だと感じる一人暮らし世帯では50.8%と5割を超えている。

もはや、孤独死は誰にとっても他人事ではない。

長年現場を取材している立場からすると、高齢者は一律に発見、日数も早いという特徴がある。それに比べて、明らかに現役世代は長期間発見されず、悲惨な状態で見つかるケースが多いのだ。

孤独死は高齢者だけの問題ではない。政府が現役世代まで引き延ばして統計を取れば、きっと恐るべき数字がたたき出されるはずである。国が現役世代の孤独死の統計を取り、その実態が公にされることで、山田さんのような死を迎える人が少しでも減るような社会を望んでやまない。

菅野 久美子 ノンフィクション作家

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かんの・くみこ / Kumiko Kanno

1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社で編集者を経て、2005年よりフリーライターに。単著に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『孤独死大国』(双葉社)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(KADOKAWA)など。

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