孤独死した50代警備員の部屋に見た残酷な孤立 男は誰にも助けを求められずに最期を迎えた
入り口近くに、体液が広がり、凄まじい異臭を放つ。山田さんは、ゴミに埋もれた形で死を迎えたのは明らかだった。
上東さんら特殊清掃人は、体液のたっぷりとしみ込んだ紙ゴミをビニール袋に詰めていく。その下には、大量のうじがうごめいていた。
地方に住む両親からは、手紙や野菜、米などが定期的に送られてきていたが、そのままの状態で放置されていた。食生活はほとんど外食で、炊飯器は何年も使用した形跡はなかった。
「スーツと革靴の数の多さを見ると警備が主な仕事で、激務だったんだろう。性格は、神経質か几帳面で、人とのコミュニケーションは不器用か苦手なタイプ。責任感が強く、関わる人たちに迷惑は絶対にかけたくないという思いがあったんだと思う」
ゴミに寄りかかりながらひっそりと
新聞は、ほとんど読まれた形跡はない。きっと心優しい性格で、営業を断り切れずに取り始めたのだろう。その新聞は激務に追われてゴミ出しすることもなく、次第に命を脅かすほどの体積に膨れ上がっていく。
布団は万年床で、ぺしゃんこになっていたが、なぜか二つ折りで畳まれたまま、何年も使用していないようだった。その理由がわからずにいると、上東さんが教えてくれた。
「彼は、右か、左半身が病気になっていたんだと思うよ。だからゴミに寄りかかりながら寝ていたんだと思う。ほら、入り口に杖があったでしょ」
確かに半身を悪くしていれば、床に敷いた布団に寝て立ち上がることは困難だ。だから、山田さんはどんなに寝心地が悪くても傾斜のある紙ゴミの山に体を横たえて寝るしかなかったのだ。上東さんは、掃除機や雑巾、ホウキなどの掃除用具がまったくないことを指摘する。
長年、警備員として働いていた山田さんの身に異変が起こったのは、ここ数年のことだろう。山田さんは、右足を負傷してから、杖を使うようになる。杖なくしては立てなくなり、仕事も辞めて、徐々に家にひきこもるようになっていく。足は日に日に悪くなり、自分の身体を呪う生活が続いたに違いない。そして、セルフネグレクトになっていく。
半身が悪化する前後に、トイレに行くのもつらくなり、きっとペットボトルに小便をためて、用を足すようになっていった。大便は近くのコンビニで済ませ、そのときに飲み物や食べ物を買うという生活を送っていたと上東さんは推測する。
傘は持てないため、雨の日はカッパで外出。次第に生きる気力はなくなり、無気力になっていく。私は山田さんのそんな生活を想像して苦しい気持ちになった。
今の窮地を相談する相手は、いない。警備会社は流動的で人の出入りも激しいため、友人もいなかったのだろう。地方に住む両親にも心配をかけられなかったのか。心身は衰弱し、食べる気力もなくなって自暴自棄になっていく。
遺品を丁寧に片付けながら、上東さんは、そんな故人の逡巡する思いをゆっくりとたどっていく。
尿の入ったペットボトルは、男性の孤独死の部屋ではよく見つかる。大抵、焼酎のペットボトルを尿瓶(しびん)代わりにして、尿をため込む。しかし山田さんの部屋からは、500ミリのペットボトルしか、見当たらなかった。
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