デフレ脱却の一里塚、トヨタ賃金交渉の帰趨 「ベアゼロ」の流れを作ったトヨタの春闘に注目

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写真は2013年春闘の集中回答日の様子(撮影:尾形文繁)

2014年春闘の“主役”であるトヨタ自動車労働組合(トヨタ労組)が、1月30日に要求案を決める。

労働組合の中央組織・日本労働組合総連合会(連合)は、今春闘で1%以上のベースアップ(ベア)を要求する方針を掲げた。これを受けて、全日本自動車産業労働組合総連合会(自動車総連)と全トヨタ労働組合連合会(全トヨタ労連)は、具体的な額は明示せずベア要求の方針を決定した。

全トヨタ労連の東正元会長は、「上部団体が決めたから(それに倣う)、では、交渉で力を持たない。だが、(個別労組の要求が)ゆめゆめ1%を外すことはありえない」と強調する。トヨタの月例賃金は平均約35万円。トヨタ労組は4000円を軸にベア要求案を打ち出すもよう。ベア要求は5年ぶりとなる。

世界市場で販売台数が拡大し、トヨタの業績は絶好調。リーマンショック前の最高益2.27兆円の更新は確実な状況だ。豊田章男社長は、「業績が上がれば報酬の形で従業員に還元するのは経営者の責務」と繰り返し発言しており、2月から始まる労使交渉は注目の的だ。

これまで以上にベアの実現に焦点が当たっているのは、デフレ脱却には賃金の引き上げが必要との認識が広がってきたためだ。

「賃上げ=ベア」とするのには議論があるが、賞与を重視した賃金政策では、その年の業績動向に影響されやすく、安定的な賃金上昇に必ずしもつながらない。また、「グローバル競争が激化する中で個別企業にとって賃上げをしないことは合理的でも、経済全体ではデフレスパイラル(物価下落と生産減少の悪循環)に陥る合成の誤謬となっている」(日本総合研究所・山田久調査部長)。

デフレ脱却を政権公約にしている安倍晋三首相は、昨年2月に経済3団体のトップを官邸に呼んで賃上げを要請。だが、固定費の上昇につながるベアに企 業は慎重だった。13年の春闘では、大半の企業が賞与の引き上げで対応した。それだけに、昨年10月の政労使会議で安倍首相は、「できることをぜひ実行し てほしい」と、あらためて賃上げを要請するなど、その姿勢は一層強まっている。

こうした中、近年、ベアは論外としてきた日本経済団体連合会は、1月15日に公表した今春闘の基本方針「経営労働政策委員会報告」の中で「賃金の引 き上げについて、ここ数年と異なる対応も選択肢となり得よう」と記し、姿勢の変化をうかがわせた。だが、「ベースアップはその(賃上げの)選択肢の一つ」 とも強調し、「賃上げ=ベア」というムードにくぎを刺すことも忘れない。

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