デフレ脱却の一里塚、トヨタ賃金交渉の帰趨 「ベアゼロ」の流れを作ったトヨタの春闘に注目

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(撮影:吉野純治、梅谷秀司)

トヨタ系でも濃淡

焦点はトヨタだが、その好調ぶりが部品会社に十分波及しているかどうかも重要になる。トヨタ系の大手部品会社は最高益更新の勢いだ。さらに、「大きな声では言えないが、取引の収益は確実によくなっている」(3次下請け社長)など、トヨタの好調ぶりが広く潤いをもたらしているとする話も聞かれる。

一方、トヨタ系の2次部品会社の中堅社員は、「われわれは置いてきぼり。ベアも右へ倣えというムードはまったくない」と言い切るように、濃淡がある。労組側でも、「上部団体の方針は尊重するが、本当に1%のベアを要求すべきなのか悩んでいる。いざというときに誰も助けてくれない以上、自分たちの会社は自分たちで守らないといけない」(全トヨタ労連加盟の労組)と、迷いも見られる。

ベアのムードは醸成されているが、トヨタ系労組がおしなべて満額のベアを勝ち取れる保証はない。実現したとしても、ごくわずかかもしれない。それでも「長く続いたデフレ脱却の一歩。(ベア実現が)これまでの方向性を変えるだけでも意味がある」(山田調査部長)。

振り返れば、02年の春闘で日本経営者団体連盟会長でもあった奥田碩会長(いずれも当時)が「賃上げは論外」との発言を繰り返した。ITバブル崩壊後の低迷から抜け出せない電機や鉄鋼はベア要求を断念していたが、自動車メーカーは好業績を満喫。トヨタは日本企業で初めて営業利益が1兆円に乗る勢いだった。そうした中、トヨタ労組の1000円のベア要求に対し、奥田発言を“後ろ盾”にした経営側はゼロ回答で押し切った。

トヨタの利益はその後も順調に拡大したが、労組側は3年連続でベア要求を見送った。06年にベア要求を復活させたものの、トヨタほど業績がよくないほとんどの企業にとって、ベアは遠い過去のものとなった。

そして、08年にリーマンショックが直撃し、ベア要求のムードは完全に消失した。02年にトヨタ労組の委員長だった全トヨタ労連の東会長は、1月10日の会見で、「今やらないと、ベアは生涯ないとなってしまう。そんな環境を作ってはいけない」と危機感を訴えている。

「日本のモノづくりを守るため」という大義の下、「ベアゼロは当たり前」という流れを作ったのがトヨタならば、それを変えるのもトヨタとなるのか。豊田章男社長の決断は大きな意味を持っている。

週刊東洋経済2014年2月1日号 核心リポート02)

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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