セブンペイ不正使用と「闇営業」の意外な共通項 対照的だった2つの芸能事務所による対応

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このように適切な対応を行ったうえで、大衆迎合とも受けとられかねない契約解除や無期限、あるいは長期の謹慎ではなく過度に厳しすぎない2カ月間の謹慎にとどめた点も評価したい。こうした問題では、商品価値が落ちたタレントを「トカゲの尻尾切り」のように切り捨てることも考えられる。

芸能人は“世間的な風当たり”を強く受ける仕事だ。そのマネジメントを行う事務所の短期的な利益だけを考えるならば、契約を切るか、あるいは契約を解除しないまま謹慎を続け、契約切れまで飼い殺しにすることも可能だったろう。

しかしワタナベエンターテインメントは、細かな経緯や事実関係の確認、適切な対応を行ったうえで所属タレントの復帰への道も用意。事務所全体のコンプライアンスに対する姿勢や、所属タレントなどに対する教育プランまで示している。

吉本興業の対応とは大きな差がついた形だが、実はセブン・ペイの事例と比べてみると1つの共通項が見える。それは「他人事」であることだ。

セブン・ペイの会見で感じた「被害者意識」

セブン・ペイからすれば悪人は不正利用を行った犯人グループであり、吉本興業から見ると所属タレントは契約を結ぶ“別の事業者”でしかなく、事務所が管理していない現場での出来事など管理しようがない。

だからこそ「他人事」であり、謝罪の気持ちも当然ながらない。むしろ、自分たちは、第三者によって厄災が降りかかってきた被害者であるとさえ感じているのかもしれない。

セブン・ペイの会見では、小林強社長が現金あるいは現金相当の価値を扱う際に、当たり前になってきている「2段階認証を知らなかった」ことに批判が集まっている。さらに危機管理対応という視点で適切でなかったのは、被害者に自分自身で被害届を出すよう話したことだ。

「警察に被害届を出してもらうのが基本的なプロセス。違うやり方がないか検討しないといけないと思っている」。このように小林社長は話したが、今回のケースで言えば不正利用被害を受けたのはセブン・ペイのシステムであり、警察への被害はセブン・ペイ側が行うべきものだ。

また、クレジットカード会社に連絡を行い、カードの再発行などを促しているが、ここでも“対策を提案している”だけだ。カード再発行は実質的な被害者である不正利用されたIDを持つ利用者に負担を強いることになる。本来ならば、顧客にシステム提供している責任者として謝罪すべき場面であることは言うまでもない。

被害者に対する補償や今後の対策など、まったく練られていない状況で、自己を正当化するかのように、自らも被害者であるという会見を開けば印象が悪化することは火を見るより明らかである。

今回の経緯を考えれば、セブン・ペイ側が入金(チャージ)を速やかに停止し、さらに利用制限も加えていれば被害拡大を少しでも防ぐことができただろう。

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