TikTokが「SNS拡散のハードル」を下げた理由 「○○メンバー、○○司会者」が自己増殖&進化

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すると今度は増殖である。ウィキペディアには「○○ゲート」が128件あるという。そのうち2004年までに起きたものはわずか21件。それが近年になって急増し、107件がこの十数年で生まれている。

「ウォーターゲート事件」の記憶が薄れていくいっぽうで、「ゲート」のミームは活発になっているのだ。これはネットの影響だと容易に想像がつく。かつてはメディアが事件の呼称を名付けていたのが、いまや市井の者が事件をうまいこと名付け、それがネットで定着して、一般化する。そのとき、ひとびとは「ゲート」を用いて事件を呼びがちで、それがウケやすいのだろう。

こうした反復や増殖こそが、ミームの特性である。

進化する「○○メンバー、○○司会者」

よく似た事例が日本にもある。「○○メンバー」だ。

ジャニーズの関係者が逮捕されると、SNSでは即座に「○○メンバー」とツイートされる。その起源は2001年、同事務所に所属していたタレントが逮捕後に釈放された際、呼称に困ったテレビ局が「稲垣メンバー」と呼んだことである。

現在では、同事務所のタレントなどメディアが扱いにくそうな者の事件が起きるなり、SNSでは「○○メンバー」と皮肉まじりのネタで呼ばれるのが恒例だ。なお、その派生には「島田司会者」もある。

このように、ミームは人々のネットワークを駆け巡りやすいのも特性である。SNSではなおさらだ。

だからだろう。中国政府は天安門事件にちなんだミーム狩りに余念がない。例えば「1989年6月4日を示す『8964』と発音が同じ『八酒六四』のラベルを酒瓶に貼り、記念酒としてインターネット上で広めたことなどから公安当局に拘束された」(産経新聞WEB版2019年4月4日)。

これなどは典型で、伝播しやすいのに加えて、どんどん派生するのだから、政府にしてみれば含意のうちに早いことミームを殺してしまえということだろう。

そういえば病原菌を進化させて人類を絶滅させるゲーム「Plague Inc.」を開発したクリエーティブチームが、同じゲームシステムで、反政府運動を鎮圧するゲーム「Rebel Inc.」も作ったのは示唆的である。前者は伝播と増殖、進化を繰り返しながら広がっていくミームのようであり、後者はそれを封じる中国政府のようだ。

またこうした「検閲」こそが、ネットワークに死をもたらすと『ソーシャルメディアの生態系』は警告する。それは政府によるものばかりではない。Facebook社やTwitter社らによる「プラットフォーム検閲」によってもだ。

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