本当は怖くない「老後2000万円」報告書の中身 金融庁の報告書は正しいことを伝えている
具体的には、「顧客の状況からみて、過度にリスクの高い商品の販売を行わない」「手数料の明確化」「リスクやリターン等を顧客が自ら判断できるようにするための分かりやすい情報提供」といったことで、これは金融サービスを提供する側にとっては、必ずしもウェルカムな内容ではないでしょう。多くの金融機関は、できるだけ自分の懐に入る手数料を明確にしたくないものです。
金融機関が敬遠する「つみたてNISA」の恒久化も提言
報告書には、個人が資産形成を行っていく環境整備のため、「つみたてNISA」について「時限を撤廃し、恒久的な措置とすることが強く望まれる」との一文も盛り込みました。
現状、「つみたてNISA」は2037年までの時限的措置ですが、恒久化できれば個人の非課税枠が拡大し、より資産形成しやすい環境が整うはずです。これについても「投資に誘導するための方便だ」と批判する人がいるかもしれませんが、そもそも金融機関は「つみたてNISA」という制度自体を歓迎していません。
なぜなら少額資金の積立投資になるため、1000万円、2000万円というまとまった資金で投資信託などを一括購入させるのに比べて、短期的利益につながらないからです。
「2000万円」という金額についても、まるで「2000万円の貯蓄がなければ老後は生活できない」というように受けとめられましたが、報告書のどこにもそのようなことは書いてありません。
あくまでも目安として2000万円という金額を示してあるだけで、その金額は「どのように老後の生活を送りたいか」によって変わってきます。「とてもぜいたくな暮らしをしたい」と思うなら、2000万円どころか5000万円、1億円という貯蓄が必要でしょう。1000万円、あるいは500万円という貯蓄しか準備ができなければ、その金額に合わせた生活水準を維持すればいいだけのことです。
「100年安心といわれていたはずの公的年金は当てにならない」という解釈も的外れです。そもそも今までだって、公的年金だけでリタイア後の生活費を賄える仕組みになっていないはずで、だからこそ皆、自分が過ごしたいと思う老後の生活をイメージして、それに見合った貯蓄を行ってきたはずです。
「100年安心というのは嘘だったのか」といった声まで野党議員から上がりましたが、「100年安心」という本当の意味は、子どもや孫の世代まで公的年金が持続可能な制度であり続けるということであり、国民の老後の生活を全額、公的年金だけで賄えるようにするということではないでしょう。
この報告書の本来の主旨は、「長期積立分散投資を浸透させること」「顧客本位の業務運営を実践すること」「高齢社会における金融サービスのあり方を考えること」――の3つです。一人ひとりの生活者が「公助」に加えて、長期資産形成という「自助」を実践することで、「各人が納得できる豊かな人生づくりを実現していきましょう」という前向きな提言なのです。
報告書は、6月の大阪での「主要20カ国・地域首脳会議」(G20サミット)のタイミングに合わせて発表しました。高齢社会の進展は世界的な課題であり、トップランナーである日本が解決に向け意欲的に議論したわけです。その議論の結果が、今回の報告書の真の中身なのです。
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