実は川重より巨大、三菱電機の「鉄道ビジネス」 車両を造らないのに鉄道関連売上高2000億円

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世界の鉄道メーカーの間では、合従連衡の動きが盛んだ。2015年に中国の国有企業である2大メーカー(中国南車、中国北車)が合併して、鉄道売上高だけで2兆円を超える巨大な中国中車が誕生した。また、日立製作所はイタリアの鉄道・信号メーカーを買収し、一時は中国中車、独シーメンス、仏アルストム、カナダのボンバルディア(鉄道事業の本拠地はドイツ)に次ぐ世界5番手に浮上した。

2017年に発表されたシーメンスとアルストムの鉄道事業統合は、欧州委員会から独占禁止法に抵触するとして今年2月に却下され、幻に終わった。しかしその直後には、機関車や客車の製造を得意とする米ワブテックが、業績不振にあえぐ米GE(ゼネラル・エレクトリック)から鉄道事業を買収、両社を合わせた売上高で日立を抜き去った。

その日立は6月4日に開催された投資家向け説明会で、「鉄道事業の継続的なM&Aを検討している」と語り、さらなる規模拡大に意欲を見せる。このように鉄道車両製造ビジネスでM&Aが続く理由は、単なる規模の追求だけではない。鉄道ビジネスの収益構造が変わりつつあるのだ。

今後の競争、キーワードはIT

世界の新規路線計画を見ると、新興国の都市鉄道(通勤電車)が目白押し。新規路線はゼロからインフラを構築するため、自動運転やCBTC(無線式列車制御システム)といった、既存の鉄道インフラに適用しづらい新技術を取り入れやすい。さらに、「CBM」(状態基準保全)を行ううえでは、IoT(モノのインターネット)プラットフォームを持つメーカーが優位に立つ。

そのため、シーメンスや日立のようにITに強い会社は競争上優位に立ちやすい。ワブテックによるGE鉄道事業の買収も、GEが得意としていた信号システムなどの技術獲得を狙ったもの、とみられている。

こうした流れに三菱電機が無縁というわけにはいかないだろう。同社が「インフォプリズム」というIoTプラットフォームを有している点も、今後の鉄道ビジネスにおいて強みとなるはずだ。

漆間専務は、「内部資源に頼る成長戦略では、今の時代の流れについていけない」と語り、海外での事業拡大策として、将来のM&Aの可能性について否定しない。つまり車両メーカーの買収可能性も「ゼロではない」ということだ。ひょっとしたら三菱電機が、今後の世界の鉄道ビジネスにおける台風の目になるかもしれない。

本記事は週刊東洋経済6月22日号に掲載した記事「実は鉄道メーカー国内2位、三菱電機の強み」を再構成して掲載しています。
大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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