「優しい人って優柔不断であることが多いですよね。彼もそのタイプで、『家族は捨てられない。仕方ない』という諦めの気持ちでダラダラと結婚生活を続けていました」
直美さんのほうも和也さんと離婚するつもりはなかった。でも、恋愛はしたい。広行さんと出会って2年後には、W不倫の関係になったと明かす。直美さんが36歳のときだ。
「気を付けてはいたのですが、すぐに妊娠してしまいました。最初は広行さんにも言わずに堕胎したのですが、翌年にまた妊娠して、『これは運命だ』と産む決心をしたのです」
ここで直美さんは男気のようなものを発揮する。自分は和也さんと離婚して子どもを産む。でも、広行さんは離婚しなくていいし、子どもを認知する必要もない。養育費もいらない。自分が1人で子どもをちゃんと育てるから――。
そういうわけにはいかないよ、と言いながら奥さんとも別れられない広行さん。まさに優柔不断な人物である。そのうちに直美さんのお腹が大きくなり、和也さんに謝って離婚を切り出す日が近づいてきた。
突然、見知らぬ女性が訪ねてきた
ここでマンガのような出来事が起こる。見知らぬ女性がアポなしで直美さんの勤務先を訪ねてきて、「大事なお話があります」と対話を要求したのだ。広行さんの奥さんではない。それでも不穏な空気を感じた直美さんは会社の外にあるカフェに彼女を案内した。すると、その女性は勝ち誇ったような表情で切り出した。
「実は私、あなたのダンナと付き合っているの。いま、妊娠してる」
直美さんだけでなく、和也さんも不倫していたのだ。ただし、相手の女性は独身である。和也さんと結婚したいのだろうか。
直美さんは当然ながら冷静に話を聞くことができた。そして、「じゃ、彼と一緒になったほうがいいよ。私はすぐにでも離婚するから心配しないで」と返した。
今度はその女性が慌てた。直美さんを怒らせて、和也さんと泣く泣く別れさせることが目的だったのに、あっさりと「あなたにあげる」と言われたからだ。
「そういうつもりじゃないの。彼がどんなにひどい人なのか、あなたにわかってほしかっただけ。子どもは産んでも産まなくてもかまわない」
意味不明なことを言い続ける女性を放置して、直美さんは帰宅した。和也さんとはケンカしなければならない。浮気した揚げ句に相手を妊娠させたことに怒っているのではない(自分も同様なので当然だ)。プライベートなことで、いきなり会社に押しかけてくるようなレベルの女と付き合ったことが許せない、と責めたのだ。
どの口がそんなことを言えたのですか、と筆者は思わず感想を漏らしてしまった。直美さんは苦笑しながら続ける。
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