貧困地のアフリカで携帯電話が大繁栄した理由

「無」消費の中に創造するチャンスがあった

セルテルはわずか6年で、ウガンダ、マラウイ、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、ガボン、シエラレオネなどアフリカの13カ国で業務を展開し、520万人の利用者を獲得する。

店舗の開業日には、待ちきれない客が数百人単位で列をなすことも珍しくなかった。2004年には売り上げが6億1400万ドル、純利益が1億4700万ドルに達する。2005年、イブラヒムは34億ドルという高値でセルテルを売却した。短期間のうちにセルテルは、世界で最も貧しい国々に眠っていた数十億ドルを引き出したのだ。

セルテルの例は氷山の一角にすぎない。アフリカは今や、グローバコムやマロック・テレコム、サファリコム、MTN、ボーダコム、テルコムなど、最先端のモバイル通信産業の拠点であり、9億6500万台以上の携帯電話を結んでいる。

こうした通信会社は、融資を受けたり新株を発行したりして数十億ドルを集めることができ、2020年には450万人分の雇用、205億ドルの納税、アフリカ経済への2140億ドルの貢献が見込まれている。携帯電話はほかの産業の価値も新たに引き出している。例えば金融テクノロジーの分野では、電話の使用履歴を指標として用い、それまで信用の対象でなかった大勢の人に信用度を付与した。

繁栄をもたらすのは市場創造型イノベーション

今なら、携帯電話がアフリカにも世界中にも行き渡っている現状を当たり前に思うかもしれないが、20年前の時点では、モ・イブラヒム以外の人にとって当たり前ではなかった。

逆風の中でイブラヒムのつくった市場は、われわれが「繁栄のパラドクス」と呼ぶ問題への解決策を表している。意外に感じるかもしれないが、貧困の解決と長期的な繁栄はつながらないのだ。繁栄をもたらすのは新しい市場を創造するイノベーションである。

教育や医療、行政機構、インフラなど、繁栄との関連が強く示唆される指標を改善するための資源を貧困国にいくら注ぎ込んでも、持続性のある真の繁栄が創出されるわけではない。国が繁栄しはじめるのは、特定のタイプのイノベーション、すなわち市場創造型イノベーションに投資したときだ。市場創造型イノベーションは、持続可能な経済発展にとって触媒の役割を果たす。

モ・イブラヒムがセルテル社をつくったときのやり方と、エフォサが非営利組織「ポバティ・ストップ・ヒア」で井戸をつくったときのやり方を比べてみよう。ポバティ・ストップ・ヒアのほうは、規模は圧倒的に小さいが、現代の貧しい国を救いたいという大勢の人たちの善意や労力を象徴している。

『繁栄のパラドクス』(ハーパーコリンズ・ ジャパン)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

ODAのうち、経済インフラの整備に向けられる資金は18.2%しかなく、ほとんどは、教育、医療、社会インフラ、その他の従来型開発プロジェクトに使われている。途上国支援の大部分を担うOECD加盟国からの支援そのものと、その支出パターンも、篤志家の寄付やプロジェクトの資金提供の行き先に大きな影響を及ぼす。エフォサのプロジェクトも根底には、困窮した地域に資源を直接注ぎ込めば貧困をなくせるという彼の信念があった。

だが、従来型開発プロジェクトではなく、イノベーションと市場を中心にしたプロジェクトに重きを置いたとしたら、どうなるだろうか。つまり、エフォサ型のプロジェクトへの資金を減らし、モ・イブラヒム型のプロジェクトへの資金を増やすとしたら、どうなるだろうか?

エフォサは貧困を解決するためにもっと多くの井戸を掘ろうとした。イブラヒムは、価値のあるものになら金を払う意思のある人たちをターゲットにした市場をつくり、問題を解決しようとした。この2つは同じではない。そして、長期的には大きな違いをもたらす。

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