貧困地のアフリカで携帯電話が大繁栄した理由

「無」消費の中に創造するチャンスがあった

アメリカの面積の3倍以上、約3000万平方キロメートルの大地に、10億を超える人が住んでいる。ほとんどの地域には、有線電話のインフラも、携帯電話会社の運用に必要な基地局もない。当時、携帯電話は貧乏人とは無縁の高価な玩具だと思われていたし、そもそも必要ともされていなかった。

アフリカのビジネスチャンスを分析しようとすると、イブラヒムのコンサルティング会社の顧客にしろ、かつて勤めていた大手通信企業の同僚にしろ、誰もが貧困の深刻さ、インフラの欠如、政情の不安定を挙げ、ビジネス以前に水や医療や教育がまったく足りていない現実を指摘するばかりだった。彼らの目に、新しいビジネスの肥沃な土壌は映っていなかった。

しかしイブラヒムは違っていた。貧困ではなく機会を見た。「故郷から離れた場所に住んでいる人が母親に会って話そうと思ったら7日間かかる。今すぐ母親と話せる道具があったら、どれだけありがたいか。どれだけの金と時間の節約になるだろう」。

不便こそが莫大な可能性

イブラヒムが、「3度の食事が贅沢ですらある大勢のアフリカ人に携帯電話なんて買えるわけない」とか、「存在していない市場へのインフラ投資なんて正当性を説明できない」などと言わなかったことに注目してほしい。彼の関心は、地域の人たちが強いられている不便に向いていた。イブラヒムにとって、その不便こそが莫大な可能性だった。

不便は「無消費」の表れであることが多い。無消費とはすなわち、潜在的な消費者が生活の中のある部分を進歩させたいと切望しながら、それに応えるプロダクトを買うだけの余裕がない、あるいは、存在を知らなかったり、入手する方法がなかったりする状況を指す。その場合、潜在的な消費者はそのプロダクトなしで我慢するか、間に合わせの代替策を編み出すことになり、生活はたいして進歩せず、不便は続く。この状態は、ビジネスチャンスを評価する指標には表れない。

しかしイブラヒムは、無消費の中に市場を「創造する」チャンスを見た。資金援助は極めて少なく、従業員も5人しかいなかったが、とにかく彼はアフリカ全土のモバイル通信網の構築を目指してセルテル社を創設した。

山のように障害があった。携帯電話のインフラを構築することは、気の遠くなる事業だった。行政府にも銀行にも頼れない。資金調達は困難を極め、しかも、ビジネスモデルの成功が見えはじめて数百万ドル分のキャッシュフローが現実味を帯びたあとも、銀行は融資を拒んだ。イブラヒムはセルテルの資金を全額、エクイティファイナンス(新株発行による自己資本調達)で賄うしかなかった。

「うちの会社程度の規模でそれだけのエクイティを実施したのは電気通信業界で初めてだった」とイブラヒムは振り返る。だがそうした困難の数々にも彼はひるまなかった。電力のないところには自力で電力を引いた。物流を自力で整備し、従業員の教育と医療も自力で整備した。道路のないところには仮設道路を敷くかヘリコプターを使った。イブラヒムは、知り合いと楽に連絡できるようになれば億万人のアフリカ人がどれほど楽になるかを励みに努力を続け、そして成功した。

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