非正規労働者の状況はむしろ悪化の一途、告発者たちが直面する現実《特集・雇用壊滅》

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非正規労働者の状況はむしろ悪化の一途、告発者たちが直面する現実《特集・雇用壊滅》

「非正規切り」は今に始まったことではない。日本の製造現場ではバブル景気の崩壊した1990年代に、雇用の調整弁として、業務請負会社の活用を本格化させた。一定の工程を請け負わせるという名目で、請負会社が供給する人材を製造ラインに投入し、メーカーが直接、指揮命令。不要となれば、請負会社への電話一本で“解雇”できた。

ただそうした請負労働者への指揮命令は労働者派遣法違反の偽装請負として、2006年に大きく社会問題化。そのとき、長らく違法状態で働かされていた当事者たちが声を上げ、非正規労働者への企業の理不尽な扱いが次々と明るみに出た。だがそんな告発者たちが今、必ずしも報われているとはいえないのが実情だ。

 「期間社員の休業手当は手取りで9万円。失業給付より少なく、これでは事実上の退職強要だ」。キヤノン非正規労働者組合宇都宮支部の大野秀之支部長は語気を強める。

1月15日、キヤノンは半導体露光装置を製造する宇都宮光機事業所の期間・契約社員192人全員に、契約期間満了時に6カ月の契約更新を行うとともに、更新後は休業扱いとして休業手当(平均賃金の85%)を支払う旨を告げた。キヤノンの諸江昭彦専務は朝日新聞のインタビューに答え、「経済合理性を超えて雇用を守ることが、今の社会がキヤノンに期待していることだ」と語る。

ただ「家族持ちでは生活できる金額ではない」(大野さん)のは事実。それを団交で問うと会社側は「自分であればパートナーに働いてもらう」と言葉を濁したという。大野さんには1男2女の3人の子供がおり、いちばん下はまだ5カ月。妻はとても働ける状態にはない。また会社は休業中の兼職は自由とするが、「多くの期間社員が生活のためすでに副業している」(大野さん)のが実態だ。大野さん自身、夜は飲食店でアルバイトをしており「昨年はほとんど休んだ記憶がない」と言う。休業期間中も正社員登用試験の受験資格は有するとされるが、昨年は組合員6人が受けて合格者はゼロ。高校卒業後12年近くこの現場で働く副支部長ですら、不合格に終わった。

通常、期間社員には退職金は支給しない規定だが、今回は特別退職金が最大で180万円支払われる。生活のため退職を選ぶ組合員も出ている。大野さんは「偽装請負告発の結果なされた07年10月の雇用は、正社員として雇用すべきであったのに、結局期間社員だった。その揚げ句のこの扱いは承服できない」と語る。

「皆さん、夜勤お疲れ様です。一日も早く現場に戻れるよう、頑張っています」。朝の9時過ぎ、パナソニックの子会社、パナソニックプラズマディスプレイ(PDP)の尼崎工場前で、夜勤明けの従業員に向けて吉岡力さんが語りかけた。

 吉岡さんは05年、自らが偽装請負という違法状態で働かされていることを知り、大阪労働局に告発。パナソニックPDP(当時は松下PDP)は直接雇用に踏み切ったが、契約期間5カ月の期間工としてだった。06年1月に期間満了で雇い止めされたが、吉岡さんは告発の報復としての不当解雇だとして裁判で争ってきた。

一審は職場復帰を認めなかったが、昨年4月、大阪高等裁判所は吉岡さん側の主張を全面的に認め、吉岡さんとパナソニックPDPの間には黙示の労働契約が成立しており、更新拒否は解雇権の濫用で無効と判断した。偽装請負の場合、パナソニックPDPと請負会社の業務委託契約は、脱法的な労働者供給事業として職業安定法44条、および中間搾取を禁じた労基法6条に違反し強度の違法性を有し、民法90条により公序良俗に反して無効と結論づけた。

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