非正規労働者の状況はむしろ悪化の一途、告発者たちが直面する現実《特集・雇用壊滅》

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 高裁判決から9カ月。パナソニック側が判決を不服として最高裁に上告したため、吉岡さんの職場復帰はいまだ成し遂げられていない。当初所属していた全労連・大阪労連とは、他の偽装請負告発者との連携をめぐって衝突し脱退。昨年末には、生活費に充てていたPC関連のアルバイトも、こうした活動を好まなかった経営者によって雇い止めされた。吉岡さんは「高裁判決の確定に全力を尽くす。同社は偽装請負後、直接雇用した期間工をこの1月末に一斉に雇い止めにするという。今こそ皆で声を上げるべきだ」と訴える。

「組合なんぞ入っとるけん正社員になれないんだ」


 「偽装請負の告発は家族のために何とか生活を安定させたいとの一念で行ったのに、こんな結果になるとは」。島本誠さんは肩を落とす。徳島県の日亜化学工業で働いていた島本さんは06年10月、労組に加入した仲間とともに労働局に偽装請負を告発。これを受けて、同社は直接雇用の採用選考を行うことを決めた。


 ところが島本さんら告発した請負労働者は面接で皆落とされ、従来の職場も追われてしまった。代わりに派遣会社から提供されたのが、同社の工場の草刈りや清掃の仕事。その仕事すら、昨年9月に雇い止めとなった。組合員の一人は職場の幹部から、「組合なんぞ入っとるけん、正社員になれないんだ」と告げられたという。8歳と生後2カ月の2人の娘の父でもある島本さんは今、日亜との係争と同時に職業訓練を受講しながら仕事を探すが、ハローワークに行っても地元ではほとんど生活できる仕事がないのが実情だという。

偽装請負が社会問題化する大きなきっかけとなったのが、00年の上段のり子さんの提訴である。のり子さんの二男、上段勇士さんは99年3月自ら命を絶った。23歳の若さだった。勇士さんは偽装請負で過酷な勤務状態にあったことが判明。請負会社のネクスターと職場のニコンの双方を訴えた。05年3月、東京地裁は原告の訴えを認め、両者連帯して2490万円を支払うように命じた。派遣・請負労働者が就業先で過労自殺したことによる損害賠償を認めた判決は初めてだった。

 それから4年弱、高裁の審理が終わり、判決期日の設定を待つのみだ。裁判所からは何度か和解の提案があったが、のり子さんはすべて断った。「判決でこれは違法だとはっきりさせないと、経営者はこれからも同じことを繰り返すでしょう。経営者に少しでも痛みを感じてほしい」。

「でも」、のり子さんはうつむき加減につぶやいた。「すべての主張が認められても私は損です。勇士には二度と会えないのですから」。

(週刊東洋経済)

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