携帯2年縛りの違約金「上限1000円」の破壊力 キャリアの囲い込み戦略は完全に崩壊する

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では、2年契約の囲い込みが仮になくなると、通信料金は本当に下がるのだろうか。

キャリア各社は通信契約を獲得するうえで、さまざまなコストをかけている。例えば、店頭での説明には1時間ほどかかることもあり、販売代理店の人件費としてはね返る。これらはキャリアが代理店に支払う契約獲得のインセンティブ(報酬)や手数料、支援金などの費用の中に含まれている。

今でも契約時に多少の事務手数料を取っているとはいえ、これまでは2年契約の利用者に対し、獲得コストを大きく転嫁することはなかったはずだ。それは、2年間ほぼ確実に入ってくる月額の通信料金収入があれば、多少の初期費用は十分にペイできる計算が立ったからだ。だが、2年契約がなくなれば、前提が変わってくる。

現在の契約者への遡及適用は難しい

ただ、違約金が大幅に下がっても通信料金を値上げすれば、簡単に乗り換えができる環境下で、競合他社に客を奪われかねない。結局のところ、官邸や総務省が意図した通り、料金が下がる可能性は高そうだ。10月から携帯通信事業に楽天が本格参入することで、競争環境もより厳しくなる。

問題は、省令改正による違約金の大幅引き下げが、現在「違約金9500円」の通信契約を結んでいるユーザーに遡及適用されるのかどうかだ。これについて総務省の担当者は「法的に言えば、遡及適用は難しいだろう」との見方を示す。

つまり、キャリアは今秋に違約金を大幅に引き下げる以前に2年契約を結んだ利用者に対しては、違約金9500円で囲い込み続けることができる。

もちろん、こうした利用者に対してもキャリアが自主的に違約金を省令の金額まで引き下げたり、安い違約金にした新プランへの移行を認めたりすることも考えられる。だが、それはあくまでキャリア側の判断に委ねられる。

秋には同時に、通信契約への加入を条件とした端末の大幅値引きも禁止される。キャリアの中にはその前の駆け込み需要に乗じて、端末購入時の一括大幅値引きによる「実質0円」などの売り方で、今のうちに9500円の違約金付きの2年契約を少しでも多く取って囲い込もうとするところがあるかもしれない。

利用者には、端末代金の大きな割引があるうちに通信の2年契約を結ぶメリットも当然あるが、デメリットも理解した上で、冷静に判断をする必要がある。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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