大学院で現在の専門分野を学んだ恵さん。卒業して専門職としての下積み期間を終えたら、海外で暮らしてみたいという夢があった。その実現のためには結婚どころか恋愛もいらない、と思った。実際に、4年間は仕事場と一人暮らしのアパートを往復するだけの生活を送ったという。
念願がかなって中国に渡ったのが28歳のとき。日本人もたくさんいる大都市に住み、毎日が楽しすぎて遊び回っていたと恵さんは振り返る。
「久しぶりに恋人ができました。現地採用の日本人で、私より1歳年下です。優しいけれど頼りない人だったな……」
中国滞在中に父親がガンを患い、余命10カ月の宣告を受ける。2年に及んだ遊学をやめて帰国を決意した恵さんは、恋人との別れも決めた。
「それまでの人生で最も悲しい時期だったからこそ気づいたんです。この人の胸では泣けない、と。彼はお互いの人生を預け合えるような相手ではありませんでした」
再び日本で働き始めた恵さん。父親は闘病中で、自分の生活も盤石とはいえない。誰かに頼りたいという気持ちが強まり、年上の既婚者と不倫してしまった。
「異業種交流会で知り合った経営者です。海外で成功した人で、奥さんと子どももいます。グイグイと迫られて、好きになってしまいました。私は不倫なんてしないという自負があったのに……。父のように男気のある、しっかりとした男性に支えられたかったのだと思います」
その既婚男性は「結婚以外なら何でもしてあげる」と宣言。図々しくもわかりやすい人だ。実際、いろんな友人に紹介してくれて、恵さんの仕事も手伝ってくれて、1人では行けないような店にも連れて行ってくれた。しかし、彼は仕事が好きすぎて、会えない日々が続くこともあった。
別れたのは父親が亡くなった翌年だった。結婚にいい印象を持っていなかった恵さんだが、葬儀の後にそれぞれの家庭に帰って行く妹と弟を目の当たりにして、「家族っていいな」と痛感したという。恵さんは33歳になっていた。
不倫相手と別れても普通の恋愛がしにくい理由
「私にはお母さんしかいない、自分もどこかに帰属したい、不倫なんてしている場合じゃない、とすごく思いました」
思い立ったら行動力がある恵さん。2つの婚活アプリに登録し、結婚相談所や街コンも試した。占いや婚活カウンセリングにも通ったという。
「同い年の独身男性とお見合いしたとき、なんだか感動してしまいました。その人が好きになったわけではありません。でも、日曜日に手をつないで街中を歩くことができる、日の当たる関係性なんだ、と新鮮に思ったのです」
彼は普通に働いている「いい人」だった。何の問題もない。ただし、ピンとこなかったので2回目以降のデートはなかったと恵さんは明かす。
不倫には後遺症があると筆者は思う。相手が経済力のある年上の既婚者である場合は特に重症化しやすい。背徳感は恋愛の刺激になりえるのに加えて、罪悪感に裏打ちされた物心両面の「優しさ」をたっぷり受けるからだ。そんな恋愛を経験すると、普通の独身異性は色あせて見えてしまう。
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