FCA・ルノー統合騒動でわかった「日産の弱点」

統合破談でも残る独立性が脅かされるリスク

ルノーと日産の現状の資本関係を見ると、日産に43.4%を出資するルノーには議決権がある一方で、日産が保有する15%のルノー株には議決権がない。フランスの会社法では、ある会社から40%以上の出資を受けている場合、出資元の株式を保有していても議決権を行使できないとの規定があるためだ。

対して、同じくルノーに15%出資するフランス政府は、長期保有株主の議決権を2倍にする国内法「フロランジュ法」を2014年に成立させたことで、ルノーの議決権の3割弱を握っている。その結果、ルノーへの発言力を通じて日産にも影響力を及ぼしてきた。

フランス政府やルノーによる圧力から身を守るため、日産が2015年に勝ち取ったのが、ルノー側から不当な経営干渉を受けたと判断した場合に、ルノーの同意なしにルノー株を買い増せる権利だ。これは「改定アライアンス基本合意書(RAMA)」と呼ばれる2社間協定に盛り込まれており、日産の経営の独立性を一定程度保障している。

ルノーに対抗できる日産の「伝家の宝刀」

日産によるルノー株の買い増しが重要な意味を持つのは、日本の会社法に「相互保有株式の議決権制限」が定められているからだ。具体的には、A社がB社の議決権の25%以上を保有する場合、B社が持つA社の議決権は行使できない。これに照らせば、日産がルノーへの出資比率を25%に引き上げれば、ルノーが持つ日産株の議決権を無効化できる。日産経営陣が「伝家の宝刀」と呼ぶ対抗策だ。

いざというときには反撃できるこの「伝家の宝刀」の存在が、RAMAがうたう日産の独立性を担保している。フランス政府の意向を受けてルノーが提案した日産との経営統合案について、日産は「統合は日産が価値を生み出す力を毀損する可能性がある」(西川廣人社長)として、否定的な姿勢を維持している。資本関係では明らかな劣勢にある日産が、ルノーの要求に応じないでいられるのは「伝家の宝刀」による牽制があるからだ。

FCAが提案していた統合案では、本社をオランダに置く持ち株会社を設立し、FCAとルノーをぶら下げる形だった。両社の企業価値の差を調整したうえで、それぞれの既存株主は持ち株会社の株式を50%ずつ握る。日産の持ち株会社への出資比率は7.5%となる一方、フランスの会社法の縛りが外れるため、日産の保有株には議決権が生じる。ルノーに15%出資するフランス政府の出資比率も同様に7.5%となる。フロランジュ法が適用外になるため、これまでルノーの3割弱の議決権を握って日産の経営に口出ししてきたフランス政府の影響力が弱まることになる。

こうしたことから、FCAとルノーの経営統合は、ルノーによる支配に長年抵抗してきた日産にとって福音ではないか。一部にはそう前向きに評価する見方もあったが、FCAとルノーが統合すれば、日産の経営の独立性は「風前の灯火」になるはずだったのだ。

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