FCA・ルノー統合騒動でわかった「日産の弱点」

統合破談でも残る独立性が脅かされるリスク

FCAとルノーが経営統合した場合、新会社(持ち株会社)の完全子会社となるルノーが43.4%の日産株を持ち続けるのに対し、日産が持つルノー株は統合新会社の株式に転換される。前述のとおり、日産は持ち株会社株の7.5%を持つことになる。

会社法の趣旨を考えると、日産が持ち株会社の出資比率を25%まで引き上げれば、ルノーが持つ日産株の議決権を停止できる可能性が高い。また、日産株を持ち株会社が直接保有するスキームになった場合も、日産が持ち株会社への出資比率を25%にすれば、持ち株会社は日産に対する議決権がなくなる。その意味でFCAとルノーが経営統合しても、伝家の宝刀は存在し続ける。しかし、この刀を抜くことが困難になるのだ。

現在のルノーの時価総額は約2兆1000億円。日産が15%から25%まで買い増すのに必要な資金は約2000億円。だが、ルノーとFCAの時価総額を単純合算すると約4兆4000億円。FCAが特別配当を行うことなどを勘案し、統合会社の企業価値を約4兆円としても、7.5%から25%まで上げるには約7000億円を要する。

結果的に日産の独立性は守られた

日産の自動車事業のネットキャッシュは約1兆6000億円(2019年3月末)あるとはいえ、2000億円と7000億円では難易度はまるで異なる。17.5%の株を買い集める難しさも考えれば、伝家の宝刀は「抜けない刀」に成り下がる。独立性を保障されているはずの現状でさえ、実際にはさまざまな圧力を受けている。43.4%の株式を保有されたまま対抗手段を失えば、日産が受ける圧力は現在と比較にならない。FCAが日産株を7%取得して過半数を握れば、支配権は完全に奪われることになる。

FCAの統合提案は、日産との統合を悲願とするルノーにとっては渡りに船だったはずだ。カルロス・ゴーン前会長の逮捕によってルノー・日産・三菱自動車による3社アライアンス(企業連合)は大混乱に陥った。新体制が発足した直後の今年4月、ルノーは改めて日産に統合を打診したものの、日産から回答さえ返ってこない状況が続く。

日産が6月25日の株主総会後に指名委員会等設置会社に移行し、独立社外取締役が取締役会の過半数を占めるようになれば、ルノーによる影響力行使のハードルは上がる。攻めあぐねていたルノーにとって、FCAからの統合提案は日産を取り込むチャンスだった。それはフランス政府にとっても同様のはずだ。

しかし、フランス政府は新会社に口出しする権利にこだわるあまり、統合交渉を壊してしまった。結果的に今回は日産の独立性は守られた。だが、ルノーが第三者と統合すれば、日産の「伝家の宝刀」が弱体化する可能性が高いままであることは変わらない。また、統合話が一つ消えたルノーが日産との統合を求めて、攻勢を再度強める可能性も考えられる。

この先、ルノーに対して新たな経営統合案が持ち込まれた場合に日産はどう対処するのか。経営の独立性を「伝家の宝刀」なしで担保する仕組みを作れるのか。さらには、企業としての実力と資本関係がねじれているルノーとの関係をどう見直していくのか。日産は今後、業績の回復とともに、提携戦略の再構築を迫られそうだ。

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