インドネシア版「Suica」はQR決済に勝てるか 都市鉄道網拡大でICカード普及、今後は?

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さらにその後、電車型のキーホルダーKMT、さらには「なんちゃってお財布ケータイ」が作れるステッカー式KMTなど、奇抜な商品が相次いで登場した。最近はこのような面白い形のものは発売されなくなってしまったが、逆に増えているのが記念デザインカードである。何らかの記念日にかこつけた限定柄のカードが1~2カ月に1回の頻度で発売されている。

これまで発券されたKMTの図柄一例。一部の限定柄は、ネットオークションで高値がつくほどの人気ぶりだ(筆者撮影)

なかなか利用者が増えなかったKMTだが、「限定」という言葉にはインドネシア人も弱いようで、ここ数年でKMTの利用は飛躍的に増加。KCIによると、現在は乗客の約6割がKMTを利用している。インドネシアでは各銀行がICカード型電子マネーを発行しており、KCIではこれらも改札機で直接利用できるため、それも含めれば料金前払い型のICカード利用率は7割程度にまで上がっている。

公式発表はないが、2018年度のKCIの財務レポートには、2016年に約300億ルピア(約2億2700万円)、2017年に約384億ルピア(約2億9200万円)のカード販売収入(THBのデポジット未返金分含む)が計上されており、カード代金が2万5000ルピア(約190円)であることを考えると、フェリカを搭載したKMTはすでに200万枚弱が発券されていると推測される。

日本式の改札は慣れない?

とはいえ、KMTのカード代支払いを敬遠し(KMTはスイカのように返却はできない)、駅窓口の列に並んでまでもデポジットが8000ルピア(約60円)のTHBにこだわる人々が一定数いるのも事実だ。この点について溝口氏は、費用面からTHBにフェリカを搭載することは難しいため、今後はシーズンパス(定期券のようなもの)など、新たな機能を搭載したカードを提案していきたいと話す。

MRTJはマルチトリップカードが未発売のため、暫定的に銀行ICカードを特設ブースで発売しているほか、チャージにも対応している(筆者撮影)

一方、4月1日から営業を開始したMRTJ(ジャカルタ地下鉄公社)は日本信号製の改札機を導入しており、日本と同様に改札通過のスピードも速く、フェリカの性能を活かせる環境にある。

ただし、MRTJではシングルトリップ、マルチプルトリップの両方のカードにフェリカを採用しているものの、金融庁からの許可待ちの状態であるため、マルチプルトリップカードは6月上旬現在発売されていない。そのため、共通利用できる銀行ICカードの流通がMRTJでは先行してしまっている。

結果的に、改札口での反応速度にカードによってバラつきが出てしまったことに加え、日本のようにゲートが開いたままの改札機に現地の人が慣れていないため、カードは反応しているものの、どのタイミングで改札機を通過すればいいのかわからず、立ち往生してしまう事態が多々発生してしまった。慣れるまではしばらく時間がかかるかもしれない。

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