「なんのためのオリなのだろう?」
と思って中をのぞくと、
「ワン!! ワン!!」
ほえ声が聞こえた。ひどく驚いた。
寝ていた犬が起きてほえたのだ。隣のオリを覗くと、成犬が寝ていた。隣の小屋には札が貼ってあり『ネコ大人3』『新入りいます 入室注意』などと書いてあった。
このオリは、動物を飼うための建造物のようだ。東屋の部分には餌用の皿やリードなどが置かれていた。人間用の調理道具も置かれていたので、定期的に人がここで過ごしているようだった。
「誰が? なんのために?」
と頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになる。少し奥に進むと、広場に出た。開墾されて、花が植えられている。
地面には、レンガが置かれていた。レンガには一つひとつ『フクちゃん』『虹を君』と名前が書かれていた。つまり、動物墓場ほえだしたので、ほうほうの体で逃げ出した。
あのオリは何の施設だったんだろう? と思い、ホームレスにインタビューをする時に、ついでに聞いていたのだが、なかなか正体がつかめなかった。何十人目かに、やっと真相を聞くことができた。
「河川敷に捨て犬や捨て猫の施設を作りたい」
「ここらのホームレスを仕切ってるボスがいるんだ。ボスといってもその人はホームレスじゃない。金融屋の社長で、マンションとかビルも持ってるらしい」
本当かどうかはわからないが、ボスはここに来て、ホームレスたちにお小遣いを渡したり、焼肉パーティーをしたりしていたそうだ。
無類の動物好きで、家でも猫を多頭飼いしている。猫がいなくなった時は、ホームレス一同が近所を探しまわったこともあると語った。
「ボスが『家では猫をダイナミックには飼えないから、河川敷に施設を作りたい』って言い出したんだ。それでお金はボスが出して、腕に覚えのあるホームレスが、あのオリを作ったんだよ」
ボスは捨て犬や捨て猫を拾ってきては、オリの中に保護して飼っていたそうだ。かなりの数になったという。
とても信じがたい話ではあるが、実際自分の目で見ているので信じざるをえない。
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