「芸能人の政権批判」にアメリカ人が寛容な理由 佐藤浩市は「三流俳優」とまで非難されたが
仮に役者が堂々と「特定の人をモデルにしました」と宣言したとしても、アメリカで『空母いぶき』なみの炎上が起こるとは、まずありえない。モデルにされたと言われた本人も、内心では面白くないにしろ、公に何かを言うことはしないはずだ。
そんなやり方は、政治家ジョークを定番とするアメリカのテレビ界では、生ぬるいほうだからである。
例えば、人気バラエティーショー「サタデー・ナイト・ライブ(以下、SNL)」では、大統領、大統領候補者、閣僚、政治家は、つねに実名でジョークのネタに挙げられる。ここ3年ほどは俳優のアレック・ボールドウィンが演じるトランプが大好評だが、過去にはウィル・フェレルがジョージ・W・ブッシュのバカっぷりを誇張する名演技をして、人気を集めた。
トランプの下で報道官を務めたショーン・スパイサーを演じたメリッサ・マッカーシーは、この役でエミー賞を受賞している。ターゲットになるのは共和党の政治家と関係者だけではない。最近も、次期選挙で民主党代表を狙うジョー・バイデン前副大統領のジョークが大ウケした。
アメリカで権力を持つ者、あるいはそれを狙う者にとって、バラエティーショーでネタにされるのは税金みたいなもの。それが嫌なら、選挙に出ないほうがいい。トランプは何度か「SNL」やボールドウィンを批判しているものの、ほかの政治家はみんな黙って受け入れてきている。
批判を逆手に取ったヒラリー
そういう状況なのだから、逆に、政治家側も利用すればいいのである。「嫌われ者」のイメージに悩まされたヒラリー・クリントンはまさに、「SNL」を、有権者に向けて自分の寛容さとユーモアのセンスをアピールするために使った。
2015年の選挙キャンペーン中、サプライズ出演で彼女が演じたのは、ヴァルという名のバーテンダー。彼女が勤める店にケイト・マッキノン演じるヒラリーがやってきて会話を交わすという筋書きだ。つまり、ヒラリーはパロディー版の自分と共演したのである。
劇中では、マッキノン演じるヒラリーが、ヴァルに「あなたはとても話しやすい人ね」と言い、ヴァルことヒラリー本人は「そんなことを言ってくれた人はこれまでいなかったわ」と答えるというやりとりもあった。そんな自虐的ジョークもやってみせたのはあっぱれながら、その努力が最終的に実らなかったのは、誰もが知るところである。
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