日本人が大好きなアボカド生産農家を襲う危険 カルテルの暗躍がもたらす環境悪化

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自身もカルテルに3年間拘束された経験を持つレムス氏は、実際にがんに罹患(りかん)した子どもを持つ家族に取材。例えば、マリア・グアダルーペの子どもルベン(7歳)とファン・カルロス(9歳)は、それぞれ白血病と肺がんと診断されたという。彼女がアボカドの栽培の仕事に従事している間は、夫のぺぺが病院で子どもの看護にあたっているほか、彼女の母親と妹も看護の手助けをしている状態だ。

マリアは、「ロス・カバリェロス(テンプラリオス)は、私を殺してはいないが、私に死をもたらした」と、重病の2人の子どものことを思い浮かべて涙ながら語っている。「死の瀬戸際にいる2人の子どもを看護せばならないという罪を償わねばならないほどのことを私はこれまでした覚えない」と語りながらも、彼女は神に感謝しているという。なぜなら「私が健康であるということで子どもたちを看護できるからだ」。

アボカド畑で働くのは多くが日雇い労働者

同じように、ホセ・ルイスの子ども(12歳)も5カ月前にがんと診断され、医者からは回復の見込みはほとんどないと言われている。子どもはカルテルでなく武装グループによって連れだされ、1年間わずか35ペソ(200円)の報酬でアボカドへの農薬噴射のために働かされた後解放されたが、そのときすでに罹患していたそうだ。

メキシコ保健局によると、ミチョアカン州でアボカドの生産に従事している自治体でがんと診断された子どもは昨年だけで42人に上る。アボカド畑で働く人たちは日雇い労働者が多く、身体の安全への保証は一切なく農薬を噴霧する仕事に従事させられているという。彼らの90%は社会保健のサービスなど享受していない。

一時はカルテルから身を守るための自警団も誕生し、サルバドル・エスカランテなど2つの自治体では、犯罪組織が駆逐された。しかし、その2年後にはその監視が緩まったため、その隙を狙ってカルテルが再び権力を持つようになった。一方、タンシタロ自治体の場合は、4年前に生産農家と販売業者が自警団に給料を払ってカルテルからの侵入を防いでいるという例もある。

カルテル同士の縄張り争いは依然続いている。こうした中、昨年12月に大統領に就任したアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(通称:アムロ)は、これまで3人の大統領(ビセンテ・フォックス、フェリペ・カルデロン、エンリケ・ペーニャ・ニエト)とは異なり、カルテルに対して軍隊と連邦警察とで武力でもって真っ向から対決する姿勢を控えるようにしている。

むしろ、アムロはカルテルが伸展するのを抑える方向に重点を置いているという。

しかし、アメリカからカルテルの取り締まりの強化を求める要求があった場合、アムロもこれまでの大統領と同様、カルテルとの武力対決を展開して行くことを余儀なくさせられる可能性がある。アボカドの消費は日本を含めて世界中で伸びている一方、当面アボカド農家を囲む環境が劇的に改善する気配はない。消費者も自らが口にするアボカドがどんな状況下で作られているのか、思いをめぐらせたほうがいいだろう。

白石 和幸 貿易コンサルタント

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しらいし かずゆき / Kazuyuki Shiraishi

1951年生まれ、広島市出身。スペイン・バレンシア在住40年。商社設立を経て貿易コンサルタントに転身。国際政治外交研究も手掛ける。著書に『1万km離れて観た日本』(文芸社)。

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