10代に「SCHOOL OF LOCK!」が響きまくる理由 ラジオ離れの中で気を吐く人気番組の裏側

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虐待にしてもいじめにしても、塀を乗り越えて他人の家や学校に踏み込んでいくのは、なかなか難しい。でも、ラジオは、そうした壁を飛び越えて、耳から入って心の中に滑り込めるメディアです。こうして若い世代と番組作りをさせてもらっている以上、彼らが発信するSOSについてはラジオとしてできるかぎりのケアをするのが使命だと考えています。

番組を盛り上げ続ける秘けつは「40分の5の法則」

――ところで、番組名はロック音楽の「ROCK」ではなく、鍵で開ける錠前を意味する「LOCK」になっています。これにはどのような思いが込められているのでしょうか。

その意味に込めた思いや真意はいくつもあり、何時間もかかってしまいそうなので、ここでは、その内のひとつについて言及します。例えば、多くの10代は心に何かしらの壁があります。人付き合いや挫折なんかで簡単にその壁は固くなり、なかなか外へ出て来ようとしなくなるし、言いたいことを言えずにいます。

でも、その壁は、実は「壁」じゃなく、よく見たら「扉」で、ちゃんと「鍵穴」がついている。だから、その扉を開ける「鍵」さえあれば、その「鍵」を一緒に見つけて、手の中に握っていてくれさえすれば、いつか扉が開いて未来につながるはず。

「未来の鍵を握るラジオの中の学校」という番組コンセプトも、そんな思いから生まれたものです。

――そんな中高生は、3年経てば中学生が高校生になり、高校生が大学生や社会人に成長します。定期的にリスナーが入れ替わることは、番組作りにどのような影響を及ぼしていますか?

番組のリスナーの顔ぶれが入れ替わったとしても、甲子園が毎年続いているのと同じで、番組自体に大きな変化はありません。それはおそらく、僕らがリスナー層を青春群像として捉えているからでしょう。細かな文化やツールは変わっても、青春時代の感情や感動は、100年前も100年後も変わらない。これを中核に置いているので、何年たっても番組コンセプトが色あせることはないと感じています。

もっとも、番組が始まった当初は、ぶっちゃけますと「今の中学1年生が高校を卒業する、6年間だけ続けて、あとはMCの交代もあり番組をやめよう」と考えていたんです。ところがいざ6年目になると、他のスタッフたちから、「この番組はもう局のものではなく、リスナーたちのものですから」と言われて翻意した経緯があります。つまりはそのくらい、この番組がリスナーにとって大切な場になれたのだなと、うれしく思いましたね。

――今後の番組作りにおいて、目指すものは何でしょうか。

感情や思いは、移動するときに最も大きなエネルギーが生まれます。例えば「この曲、知ってる? めちゃくちゃ良かったよ!」と人に勧めるとき、そこには大きな熱量を伴います。そうやってずっと移動し続けられる番組でありたいし、そうでなければ若者向けのコンテンツは長持ちしない。流行り言葉にしても、ギャグにしても、全員が認知した瞬間から、あっという間に忘れられてしまうものですから。

そこで、僕がよく言うのは、「クラスの40人のうち、5人が知ってるくらいがちょうどいい」。40人全員が知ってしまうと、もう情報は移動しません。でも、クラスで5人くらいが知っていることって、じわじわと波及していくんですよ。ラジオはそういう40分の5を生み出しやすいメディアだと僕は思っています。このさじ加減は、今後も大切に守っていきたいですね。

取材・文:友清 哲/編集:ノオト

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