「まったく採用されないで収入と貯金がゼロになったことが3度あって、そのたびに生活保護を受けています。資格持っているのにどうして?ってソーシャルワーカーの人に厳しく言われるので、できれば生活保護はもう受けたくない。だから今、必死に仕事を探しています。今日も明日も、介護施設に面接に行きます」
数年前、東京での生活に限界を感じて九州に帰郷したことがある。実家は両親と弟が住み、家族から「本当に迷惑なんだけど」と何十回も言われたという。実家に居場所はなく、外に散歩に出かけた。小さな商店の前で、中学の同級生にばったり会った。彼女は勇気を振り絞って「〇〇さん、久しぶり!」と声をかけた。
「同じクラスだった同級生がいたので声をかけたんです。そうしたら無言で冷たい目線で、3秒間くらいじーっと見つめられた。それで、シッシッと手で払われました。そのときに、もうここにはいられないって悟りました」
3月まで働いた介護施設は、慢性的な人手不足だった。採用も即決まって翌日から勤務した。一度出勤すると12~36時間帰れない長時間労働だった。36時間労働は本当にツラく、寝不足と疲労で目の前がかすんでくる。家に帰れば、倒れるように眠って起きたらすぐに出勤しなければならない。
厳しい日常を繰り返すしか選択肢がない人生
「孤独がツラくて恋人がほしいって思ったこともありました。婚活パーティーとか街コンとか何度か行ったことがあります。でも、誰からもあいさつすらされないし、ずっと無言で立っていなきゃならない。すごくツラい。
好みの男性のタイプは岡田准一君です。でも岡田君みたいな人は誰もいない。だから、もう恋人とか男性と知り合うとか諦めました。だから、彼氏いない歴は年齢です。49年いません」
ファミレスで彼女の哀しい独白に耳を傾け、2時間くらい経っただろうか。“岡田准一のような恋人がほしいけど、諦めた”という言葉を最後に話は終わった。地味な色合いのおばさんっぽい服装や髪型など、見た目から変えていけば……というアドバイスがのどまででかかったが、彼女は無職の貧困なのでそんな経済的な余裕はない。
また職探しをして、おそらく不人気なブラックな介護施設に非正規雇用される。厳しい日常を繰り返すしか選択肢がない。49年間、楽しいことや笑ったことがほとんどない人生――ちょっと筆者には想像がつかなかった。会計して彼女は木造アパートがある自宅の方面へ、筆者は新宿行きの急行に乗るために駅へと向かった。
トボトボと歩く甲斐さんの後ろ姿に、苦境から抜け出せる日はくるのだろうか、と哀愁を感じた。
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