1億人が熱中する中国 「共産党アプリ」の正体 開発したのは、あの巨大IT企業?

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だが、習近平政権の成立後、国家主席の発言や政策などに関してオンラインで情報発信する新メディアである「学習小組(シュエシーシャオズ)」が誕生。『人民日報』がSNSの公式アカウントを開設し、国民がスマートフォンから簡単にアクセスできるようにしている。一般人から国内外のマスコミ関係者や政策研究者に至るまで、多くのユーザーを囲い込む。

中国国内のスマホユーザーは約8億人。決済アプリや出前注文アプリをはじめ、多様なスマホアプリが人びとのライフスタイルに劇的な変化をもたらしてきた。とくにインターネット環境の整った都市部に住む中国人にとっては、スマホが欠かせない存在になっている。こうしたスマホの急速な普及と、従来のオフラインでのプロパガンダに対して抵抗感を持つ国民が増えたことを受け、習近平政権はオンラインでのプロパガンダを強化しているというわけだ。

「政府と恋愛関係をつくっても、結婚はしない」

一方、公式発表はなされていないようだが、「学習強国」を開発したのは、中国のEC(電子商取引)最大手であるアリババグループだ。なぜアリババなのかについてはさまざまな憶測がある。単純に技術力が優れているからだという説もあるが、アリババの創業者であるジャック・マー会長が共産党員だからではないかという指摘も多い。同氏はかつて、「政府と恋愛関係をつくってもいいが、結婚はしない」という興味深い発言を残している。だが、アリババの狙いは、政府との良好な関係の維持にとどまらないだろう。

同社は今、2014年にリリースした、中小企業向けのSNS「釘釘(DingTalk)」のユーザー拡大に腐心している。これまでSNSの分野では、「微信(ウィーチャット)」を手がけるライバルのテンセントの後塵を拝してきたが、企業向けSNSは例外的に急成長を続けている。アリババはこの「釘釘」で、行政サービスへの参入を目指しており、「学習強国」アプリを通して政府職員ユーザーの確保を狙っていると見られる。

もちろん課題もある。政府関係の一部ユーザーからは、同アプリの使用が義務化され、獲得ポイントのノルマまで課されることに対する不満の声も上がっている。ユーザー数も1億人を超えたとはいえ、中国の人口はその10倍以上だ。ただ、共産党と巨大IT企業の手がける「学習強国」が、政治教育の常識と中国アプリの業界地図を塗り替える可能性は決して否定できない。

趙 瑋琳 伊藤忠総研 産業調査センター 主任研究員

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チョウ イーリン / Weilin Zhao

中国遼寧省出身。2002年に来日。2008年東京工業大学大学院社会理工学研究科修了、イノベーションの制度論、技術経済学にて博士号取得。早稲田大学商学学術院総合研究所、富士通総研を経て2019年9月より現職。情報通信、デジタルイノベーションと社会・経済への影響、プラットフォーマーとテックベンチャー企業などに関する研究を行っている。論文・執筆・講演多数。著書に『BATHの企業戦略分析―バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイの全容』(日経BP社)。

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