「中国製」に食指、ヨーロッパ新興鉄道の思惑 高コストの現行車両を他社に譲渡して導入?

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そんな中、ほぼ時を同じくして、ドイツ鉄道の長距離列車運行子会社であるDBフェルンフェアケール(Fernverkehr)が今年3月末、中古車両の譲り受けを希望する通知を欧州連合の官報に掲載した。その目的は、慢性的な車両不足を解消するため、冬ダイヤがスタートする今年12月から早急に使用開始できる車両の調達である。

同社が希望する中古車両は、1編成当たり500人以上の高い収容力に加え、最高速度は時速200km以上、欧州標準信号システムERTMS/ETCSレベル2を装備し、かつ製造からの年数が10年未満という、かなり限定的な条件が付けられている。

ボンバルディア製のスイス鉄道RABe502型電車(筆者撮影)

ところが奇妙にも、ウェストバーンの「KISS」はこの条件にすべて合致している。オーストリアとドイツは電化方式も同じで、買い取ればすぐにでも営業運転を始めることができる。ちなみに、KISS以外で上記の条件に合致するのは、現有車両ではスイス鉄道が最近導入したRABe502型特急電車くらいしかない。この車両は現在導入が進んでいる最新車両であり、中古の出物を購入することは事実上不可能である。

よって、この件はウェストバーンが新車の導入を検討しているという情報を聞きつけたドイツ鉄道が、現有車両を引き取りたいということを暗に示している、と考えるのが自然だと言えよう。

なお、その数日後にはオーストリア鉄道も同車両を引き取りたい旨を公表している。まさに引く手数多だ。

中古車を欲しがる理由がある

しかし、民営化されたとはいえ、旧国鉄であるドイツ鉄道が中古車両を求めているとはいささか信じがたい話ではある。なぜ同社は新車でなく、あえて中古車両を探していると宣言したのだろうか。

ヨーロッパの場合、新規開発された車両は、メーカーから出荷されて試運転が終わったらすぐ営業開始――と簡単にはことが運ばない。まず、その新型車両が各国の基準に適合するかどうか長期間のテストが行われ、運輸省(またはそれに相当する各国の公的機関)から認可を取得しなければならない。これが時間のかかる作業で、すんなりデビューできなかった車両は数多く、中には営業開始まで何年も要した車両もある。

2018年の「イノトランス」(国際鉄道見本市)に展示されたシュコダ製ドイツ鉄道向け快速列車用客車。長期間試運転が続いているが、まだ運行認可は取得できていないもようだ(筆者撮影)

実際、ドイツ鉄道が導入予定で、数年前から試運転が続けられているチェコのシュコダ製新型2階建て客車は、TSI(相互運用性に関する技術仕様)については認可を取得したものの、EBA(ドイツ連邦鉄道庁)からはまだ取得できておらず、すでに運行開始が2年以上遅れている。

チェコ東部のオストラヴァにあるシュコダ社の客車製造工場では、2019年5月の段階で、試運転から戻った客車を調整するため、工場内で再度分解して手直しをされている姿を目撃している。

このような事情を考えると、ドイツ鉄道が車両不足の早急な解消のため、実績ある中古車の導入を計画することはなんら不思議ではない。

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