英のEU離脱、北アイルランド特別扱いしかない 慶応大の白井さゆり・元日銀審議委員に聞く

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――EUの地盤沈下とさらなる分裂の恐れは。

確かに懸念材料はある。とくに、移民問題を背景にポピュリズムの台頭は著しい。これに加えて、エリートに対するノンエリートの反発が背景にある。

フランスの「黄色いベスト運動」に代表されるように、欧州では、非伝統的金融緩和政策による不動産バブルで住宅価格や家賃が高騰する中、賃金の上昇が追い付かず、庶民の生活が苦しくなっていることが政府への不満につながっている。低成長に加え、移民・難民問題やイタリアなどの財政赤字問題も含め、EUが抱える課題は多い。

ただ、(イギリスを除いても)人口は4.5億人で、アメリカの3.2億人を上回る。EUの加盟国は拡大しており、今後もバルカン諸国など(遠い将来にはEUと関税同盟をしているトルコなど)の新たな加盟が見込まれる。新しく加盟する低所得国にEUから補助金などいろいろな支援がなされている。

アメリカと並ぶ巨大市場としてのEUの存在感は大きい。アメリカとの通商交渉でも圧力に屈しないなど交渉力や発言力も強い。アフリカや中東とも関係が密接であり、今後もEUは世界で大きな影響力を発揮していくだろう。

「ジャパナイゼーション」とは言えず

――欧州中央銀行(ECB)は2019年内の利上げ開始を断念し、出口戦略を修正しています。

ユーロ圏内の経済成長率が落ちて、利上げを正当化できなくなった。利上げ時期も来年以降に遅らせるし、9月からは市中銀行に低利で資金供給を行うTLTRO(貸出条件付き長期資金供給オペ)の第3弾を行う予定だ。

市場内では欧州やECBの「ジャパナイゼーション(日本化)」が取り沙汰されているが、日本とはかなり違う。ユーロ圏のコアインフレ率(エネルギー・食料を除く)はここ何年も1%程度で、日本はゼロに近い。また、日本銀行は単独の中央銀行だが、ECBは19カ国からなっており、マネタイゼーション(政府債務の貨幣化)禁止の条約が明確で、国債など資産買い入れのハードルは比較的高い。

日本はなぜインフレにならないのか。日本の物価が厄介なのは、家計がみんな「物価は高い」と思っていることだ。デフレマインドなんて持っていない。家計の物価上昇に対する拒否感があるから、企業が物価を上げないように一生懸命努力しているのが実態だ。

――アメリカで話題のMMT(現代金融理論:Modern Monetary Theory )が日本でも議論されています。極めて単純に言えば、「自国通貨建ての債務は返済不能とならない」というものですが、どう考えますか。

金融緩和で思ったほど需要をつくれなかったことで、あとは財政に頼らざるをえないということから注目されている。提唱者のステファニー・ケルトン教授は、日本はすでに実施していると主張している。企業と家計が貯蓄余剰で、政府だけが投資超過であり、日本銀行が10年金利を0%程度で安定化させている現状からみて、そうした見方を完全に非難はできないが、行き着く先がどうなるかは有識者がしっかり議論すべきだろう。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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