米中貿易協議の行方に楽観するこれだけの理由 中国は最終的に大きく譲歩せざるを得ない

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中国の政策関係者の間でこんな分かりやすいたとえが流行っている。改革をリンゴの木に例えるなら、過去40年間で中国はすでに取りやすい場所にあったリンゴを全部取ってしまった。残ったリンゴは相当努力しなければ手が届かない場所にある。だから、アメリカからの「外圧」を生かし、一番難しいところにあるリンゴを取ろうとする中国の改革派は、まず国内の既得権益の抵抗を排除しなければならない。

ここで言いたいのは、中間選挙を意識するトランプ大統領の焦りもわかるが、中国の政策担当者の立場もわかってほしいということだ。中国の改革派からみれば、自分たちが相当努力しているのに、トランプ大統領から「遅い」と怒鳴られれば、余計に立場が難しくなるのではないかと考えられる。

雨降って地固まるのは時間の問題

足元の景気が想定以上に堅調ということもあって、米中は再びけんかする底力が出てきたのかもしれないが、その余裕がなくなれば、いずれ対話のテーブルに着くだろう。1979年以降の米中摩擦や交渉の歴史を振り返れば、雨降って地固まるのは時間の問題だ。少なくとも経済において、米中決裂が双方にとっていいことが一つもないのは両方の指導者が分かっているはずだ。

先日、ある高名な資産運用者は、「アメリカの名目GDP(国内総生産)に占める中国向けの(アメリカの)輸出額はわずかな割合にとどまっているため、米中貿易摩擦がアメリカ経済に及ぼす影響はほとんどない」と公言した。

だが、トランプ大統領のツイッターの投稿一つで、グローバル株式市場の時価総額がどれくらい減っているのか。その牧歌的なコメントをやめて、現実に目を向けたほうがいいだろう。

最後に、日本の専門家の中には1970~80年代の日米貿易摩擦を引き合いに出して、米中貿易摩擦を語る人も少なくない。しかし、表層的に似ていても、両者の本質はまったく違う。

米中貿易摩擦を考える際には、米中がそもそも対立する構図にあるという点を忘れず、多少の波乱には動じずにもっと肝っ玉を太くして事態を見る必要がある。米中がどんな大げんかをしても、最後には必ず取引が成立する。両国とも駆け引きに長けているからだ。

肖 敏捷 エコノミスト、AIS CAPITAL株式会社 代表パートナー

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しょう びんしょう / Xiao minjie

1964年、中国西安市生まれ。武漢大学卒。1994年に筑波大学博士課程単位取得退学後、大和総研、SMBC日興証券で、エコノミストとして中国経済や金融資本市場に関する調査研究に従事。2018年11月から現職。主な著書に『人気中国人エコノミストによる中国経済事情』(日本経済新聞出版社=2010年)、『中国 新たな経済大革命』(同=2017年)など。テレビ東京の「モーニングサテライト」のコメンテーターとしても知られる。

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