フリーランスを志す31歳男性の「夢と現実」 ウーバーイーツ配達員の収入は月4万円程度

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シンヤさんも名ばかり事業主ではないのか――。私の指摘に対し、彼はこう反論した。

「(労働者を守る)労働基準法はもう古いと思います。人材が流動化する時代、それでは価格競争に勝てません。事故に遭ったとしても自己責任。それに、例えばアフィリエイトで稼げるようになれば、働かなくても収入を得られるわけですから、それは有給休暇と同じなんじゃないですか。交通費は、テレビ会議などを増やすことで節約できます。

“前へならえ”って、(戦前の)兵隊教育をマッカーサーが残したものだって、知ってますか。これは工場労働者や、上司に従順な会社員をつくるにはいいんですが、個人事業主という新しい働き方が増えていく、これからの時代には合わないと思います」。

シンヤさんはこうしたことを、起業サークルのセミナーで学んだという。しかし、有給休暇とアフィリエイトビジネスの仕組みを同列に語ることはできないし、“前へならえ”が連合国軍最高司令官マッカーサーの置き土産だという話は初耳である。私から見ると、知識不足と事実誤認なのだが、シンヤさんに言わせると「価値観の違いです」となる。

シンヤさんは、ホリエモンこと堀江貴文や、最近では絵本作家という肩書のほうが浸透している漫才コンビ・キングコングの西野亮廣の著作も読んだという。また、有名ブロガーたちの名前を挙げながら、努力をして毎月何百万円も稼いでいる人はいる、と訴える。

「無防備な個人事業主」が増えていく社会

「バイク便の仕事もセミナーの参加者から教えてもらいました。やはり、人脈は大事なんです。ベテランの中には、月40万円、稼いでいる人もいるそうです。でも、バイク便の仕事だけに頼っちゃダメです。(動画投稿などの)副業で稼げる仕組みをつくってリスク分散する。そうすれば、怪我や病気で収入が一時的に途絶えても問題ありません」

私はフリーランスという働き方を否定はしない。ずば抜けた才能を持った人や、組織になじめない人は存在するからだ。何より、私自身がフリーランスだし。

一方で、組織である「雇用する側」と、個人である「雇用される側」は決して対等ではない。この力関係が今後も変わらない以上、労働基準法をはじめとした労働関連法が雇用される側を保護し、雇用する側の暴走に歯止めをかけるのは当然のことだ。法律に守られない“無防備な個人事業主”を安易に増やす政策が行き着く先は、「ブラック企業」と生活困窮者があふれる社会だろう。

シンヤさんは、政治はあてにならない、だから、これからはフリーランスなのだという。個人事業主が増えていく――。それは、まさに政治の思惑どおりのシナリオでもある。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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