「車椅子の自動運転化」が変える社会の風景 障害者利用の先に見据える「健常者の需要」

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電動車椅子のハードと、それに連携するアプリなどのソフトを独自開発しているWHILLの先進性の1つは、こうしたユーザビリティー向上のための技術力だという。

首相官邸で。WHILLは自動運転システムの運用を2020年に開始予定。健常者の移動が楽になるなど、メリットは計り知れない(写真:WHILL社提供)

とくに、重点を置いているのが、今回CES2019で評価されたMaaS(Mobility as a Service)と言われる分野での自動運転技術だ。

MaaSとはICT(情報通信技術)によってマイカー以外の交通手段がクラウド化され、利用者が使いたいときにスマホなどで呼び出して利用できる移動サービスのことだ。

この分野では車の自動運転に注目が集まるが、WHILLは電動車椅子の自動運転システムの運用を、2020年から公道のほか、オランダ、イギリス、アメリカの空港などで実施する予定だ。この試みには、どういったメリットがあるのか。

「空港では、車椅子利用の搭乗者の介助や車椅子の回収に、多くの人手が必要とされています。車椅子利用者の支援を無償で提供することが義務付けられている国がたくさんあります。実際、世界トップ20に入るある大規模空港では、このための予算が年間数十億円割り当てられています。自動運転が実施されれば、それにかかるコストは大幅に削減できるのです」

移動や乗降のたびに手助けを受けなくてはいけない、車椅子利用者の心理的負担が削減できるのも大きいだろう。

この自動運転システムは、普段は車椅子を必要としない人のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上にも役立つという。一見、健康そうに見える人でも、ひざ痛のほか、リウマチや膠原病といった自己免疫疾患など、目には見えない症状で思うように歩行できない人も少なくない。

目に見えない症状を抱える、健常者の移動も楽にする

「日本には500mの距離を歩行できない方が900万人以上います。しかし、その中で電動車椅子の市場は毎年2万5000人程度です。ということは、大多数の方が歩行困難なまま移動していることになります。ただでさえ、独居の高齢者が増えていて、介助者がついていない状況がほとんどなため、こうした方たちは自然と出かけるのがおっくうになり、家にこもりがちになるのです」

しかし、歩行困難者が車椅子を積極的に利用したがらないのも理由があるという。

「昔、メガネをかけている人が『メガネザル』と言われたように、車椅子にもボジティブなイメージがないため、なるべくそうしたものに頼りたくないという気持ちが大きいのだと思います。

でも、メガネも今では各社がリーズナブルでおしゃれなものを販売していたり、姿勢矯正機能がついたものなども若者が積極的に利用しています。私には、『ネガティブなものはポジティブになり、そして、いつかポジティブを超える』という持論があります。ですから、誰もが乗りたくなるようなデザインに注力しています」

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