ジャカルタ地下鉄開業、薄い「日本」の存在感 記念式典で大統領は一言も「支援」に触れず

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朝のラッシュ時間帯では、始発のルバックブルスで座席はほぼ埋まってしまう。その後も各駅で乗車があり、中間のブロックMでは立ち客もかなり出ている。それでも車内は静寂に包まれており、繰り返しのマナー放送をもってしても混沌としたKCIの通勤風景とはやはり状況を異にする。

MRTJ発券のプリペイドカードはまだ発売されていないが、銀行発券の電子マネーがあれば窓口に並ばずに乗車可能だ(筆者撮影)

4月中はあくまでも暫定営業であり、5時30分~22時まで終日10分間隔(深夜早朝除く)の運転で、4月上旬時点では券売機もほとんどが稼働しておらず、乗客は銀行が発行する電子マネー(駅でのチャージは不可)を使うか、窓口に並んで乗車券を購入する必要がある。

営業開始直前に決まった正規運賃は、ルバックブルス―ブンダランHI間で1万4000ルピア(約110円)。開業後1カ月間は半額だが、KCIなら同距離で3000ルピアであることを考えると割高である。それでも、すでに1日8万~10万人程度がMRTJを利用している。

5月からは車両6編成を投入し、運転時間帯の拡大および朝夕の5分間隔運転が実施される。今後は各駅での2次交通との結節も強化されることとなり、開業時目標の1日利用者数16万人という数値は簡単に達成するだろう。

日本の努力は知られていない?

もちろん、このMRTJの順調な滑り出しの裏には、日本の鉄道現場を支えてきたプロフェッショナルの存在がある。この5年弱の間、日本の鉄道業界各部門のエキスパートがプロジェクトに投入されてきたのは紛れもない事実である。その中でも、存在感が大きかったのはJR東日本や東京メトロが中心となって設立された日本コンサルタンツである。

詳細は後述するが、MRTJ社はジャカルタ特別州政府の意向が大きく反映されている。その結果、国鉄(インドネシア鉄道:KAI)から転籍した人材はほんの数人に限られる。つまり、よりシステマティックな近代的都市鉄道を設立することには成功したが、代償としてゼロから鉄道会社をつくり上げることになった。

日本人のエキスパートたちはMRTJ社員に、安全とは何たるかという部分に始まり、文字どおりゼロからすべてを叩き込んだ。そして、開業時期も直近まで確定しない中、毎日のように変わる運転計画を不眠不休で立案してきた。

時刻表どおり正確に走るMRTJ南北線の陰で、各企業がどんな努力をこの5年半の間に行ってきたのか、日本側のとりまとめ機関には、少なくともインドネシア側へ周知させる責任があるのではないか。くれぐれも、これらすべてを「オールジャパンで挑んだ鉄道」などという安直な言葉で一括りにしてもらいたくはない。

JICAや日本大使館のSNSで紹介されているとはいえ、それらを逐一確認しているインドネシア人など微々たるものである。中には中国がつくったと勘違いしている人もいるほどで、あまりにも残念な話だ。

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