トヨタが「HV特許」を無償で提供する本当の理由 2万件超にわたる電動車技術を開放する意味

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ヨーロッパ各社は、それをPHEV、そして48V電装系を使ったマイルドハイブリッド(MHEV)で補おうとしている。しかしながら、まずPHEVに関してトヨタは、プリウスPHVの売れ行きからして、ユーザーに対してそこまでの訴求力を持つとは考えにくいという確信に至っているようである。

特にMHEVに関して言えば、まずコンポーネンツとして電気モーター、インバーター、バッテリーなどが必要になる。加えて、もちろん内燃エンジンも積むわけだから、実はトヨタのHEVであるTHS2とはざっくり言って電気モーター1基分程度の違いしかない。それだけコストがかかる一方、効果は内燃エンジン車に比べて十数%の燃費向上がせいぜいで、THS2には遠く及ばないというのが実際のところだ。

トヨタはとっくの昔にクラウンでMHEVを世に出しているが、あとが続かなかったという事実が、その果実の小ささを物語っている。一方でHEVに関しては、THS2のコストはだいぶ下がっているし、今後もその方向がさらに推し進められていく。使い勝手まで含めたもっとも現実的なCO2排出量低減の解として、トヨタはここに確かな可能性を見いだしているのである。

カギを握る全固体電池

そうは言ってもBEVについて言うなら、もしどこかの自動車メーカーが他社からの技術供給を考えるなら、トヨタの技術ではなく、プラットフォームごと供給するというVWのMEBのほうに強い関心を寄せるのではないかとも考えられる。トヨタはBEV専用のプラットフォームは用意しないのだろうか。

実は寺師副社長自身「BEVは専用プラットフォームで作ったほうが効率はいい」と口を滑らせていた。つまり当然、準備は進めているのだろう。しかし、それは今ではない。

推測だが、トヨタは今のリチウムイオンバッテリーを使ったBEVにはまだ本腰を入れるのは早いと見なしているのではないだろうか。2025~2030年あたりはまだ、こうしたBEVは販売の何割かを占めるだけにすぎず、本格普及はその先。そのときにカギとなるのは、開発中と公言されている全固体電池であり、それが使える前提となれば車体のパッケージングは大きく変わってくる。トヨタとしては、そこからがBEV本格普及時代だと狙いを定めて、それに向けた開発を進めているに違いない。

ともあれトヨタがVWの動きに焦り、BEV開発に遅れ、HEV技術に拘泥し……といった話は、トヨタ自身がこれまで明らかにしてきたことだけを参照しても、見当違いだということが見えてくる。必要以上に持ち上げる必要もないが、こじつけの理由でのトヨタ悲観論は自動車の将来像を見えにくくするだけではないだろうか。

島下 泰久 モータージャーナリスト

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しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

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