トヨタが「HV特許」を無償で提供する本当の理由 2万件超にわたる電動車技術を開放する意味

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年間最大1500万台規模でMEBを外部に供給する用意があるとぶちあげたVWに対抗しての、HEVの仲間づくりだという声もある。しかしながら、先日開催された本件に関する説明会でトヨタ自動車の寺師茂樹副社長は「10年前の議論ですね」と言う。実際、これまでも料金を支払えば、トヨタは特許実施権をオープンにしてきており、これまで日産、マツダがトヨタのシステムを使った車両を開発、販売しているし、フォードにもライセンス供与を行っている。

実は今回の発表の背景にあるのは、むしろトヨタに対する電動化関連技術の供給、開発協力などの依頼が、ここに来て非常に増えているという事実だ。トヨタが仲間を集っているのではなく、トヨタに仲間に入れてほしいと打診してくる会社が、寺師氏曰く「向こう5年は仕事に困らないくらい」列をなしている状況なのである。

寺師副社長は「2030年に向けて自動車が電動化の方向に大きく進んでいくのは間違いありません。その中で、トヨタの技術を使いたいという多くのお声がけをいただいています。自分たちだけでも開発は大変なのに他社さんの分まで……という声はもちろん社内にもありますが、皆で一緒に使っていくようにしていかなければ」と話していた。特許実施権の開放それ自体が狙いではなく、まさに皆で一緒にやっていくなら、じゃあそれも開放しようという話なのだ。

「もちろん、今の数倍の規模で電動化のシステムを作っていくには相当な投資が必要です。ですがこのタイミングであれば、他社さんと一緒に投資をしてスペックも協議して決めることができます」ということで、トヨタとしてはこの分野でTier2のサプライヤーとして、他社とビジネスをしていく。そうした仕組みを整えていくということこそ、今回の件の主眼と言うべきなのである。

考えるべき今後のCO2規制

さて、トヨタが依然としてBEVよりもHEVに力を入れている、もしくは少なくともそのように見えるのは、これもよく言われるようにBEV技術で立ち遅れ、HEVにはまだ旨味があるからなのだろうか? それを考えるうえでは、今後のCO2規制についてしっかり考えておく必要があるだろう。

環境問題、エネルギー問題など理由はさまざまだが、ともあれ世界の各国、各地域で今後ZEV(ゼロ・エミッションヴィークル)が求められてくるのは事実であり、その比率は徐々に増えていくはずだ。寺師副社長もおそらく現在、世界のメーカーが公言している2030年目標のBEV比率は、前倒しで実現されていくだろうと言う。

一方、ZEV導入と併せて考えなければならないのがCO2排出量の低減だ。例えばEUの今後の規制値を見ると、2030年には何と現在のほぼ半分にしなければならない。「2020年からの95g/km規制は何とかメドがついています。ですが(そこから更に15%削減する)2025年の規制値は販売する車種すべてがプリウスなら達成できるというぐらい厳しい数字です。そして2030年には、それでも足りません」と、寺師氏は見通しを示す。

それをすべてBEVの導入で賄うのは非常に難しい。昨年の全世界のBEVの販売総数は、およそ120万台。トヨタ1社のHEV車の世界販売160万台の4分の3という数字である。これを各社何百万台というレベルに引き上げるのがいかに難しいかは、容易に想像できる。

しかも、仮に年間販売1000万台のメーカーが販売の2割、200万台をEVにできたとしても、それはCO2排出量を2割減らすことにしかならない。半減を目指すなら、それではまったく足りない。

次ページ現実的なCO2排出量低減の解とは?
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