トヨタが「HV特許」を無償で提供する本当の理由 2万件超にわたる電動車技術を開放する意味
「トヨタ自動車、ハイブリッド車開発で培ったモーター・PCU・システム制御等車両電動化技術の特許実施権を無償で提供」というのが、トヨタが4月3日に出したプレスリリースのタイトルである。内容は読んで字の如く……と言いたいところだが、理解が難しいのか裏読みしようとしすぎているのか、世間にはさまざまな勝手な解釈、憶測、ストーリーが流布されてしまっている感がある。
例えば、開発中のバッテリー電気自動車(BEV)用プラットフォーム「MEB」の他社への大規模な販売計画を発表したフォルクスワーゲン(VW)に対して、焦ったトヨタが、BEVに対抗するハイブリッド(HEV)の仲間づくりを急いだ結果の特許開放だという論調は、その象徴的なもの。また、電気自動車(EV)開発に後れを取ったトヨタは、得意のすり合わせ技術の結晶である内燃機関を使用した独自のハイブリッドにこだわり、できる限り収益を上げ続けるべくそれを延命させようと必死だ……という、これまでにもよく見た種類のものも、またぞろ出てきている。
それらはすべて間違いだ……とまでは言わない。しかし、字面をきちんと読み、またきちんと取材したならば、そういう結論にはならないはずである。トヨタが考えているパワートレーンの未来像は、そんな近視眼的なものではない。
20年以上の蓄積を無償提供
まず大前提として、トヨタが特許実施権を開放するのはハイブリッド車専用の技術ではなく“ハイブリッド車開発で培った電動化技術”についてである。HEVもプラグインハイブリッド(PHEV)も、BEVも燃料電池自動車(FCV)も、内燃エンジンの有無、外部充電の可否、バッテリーに蓄えた電気を使うか、水素から取り出した電気を使うかという違いこそあれ、最終的に車輪を電気モーターで駆動するのは一緒である。
つまり、トヨタがハイブリッド車の開発で培ってきた電気モーター、バッテリー、パワーコントロールユニット(PCU)などの技術やノウハウは、これらすべての次世代パワートレーンに適用されるものなのだ。
これらについてトヨタが単独保有する特許は、世界で約2万3740件にも上る。改めて言うまでもなくHEVは非常に高度な技術で成り立っており、内燃エンジンに関する部分を脇に置くとしても、電気モーターでいかに走らせ、またいかにエネルギーを回生するか、電池をいかに制御するかという技術そしてノウハウの、20年以上にも及ぶ蓄積は非常に大きい。それをトヨタは2030年まで無償で提供するというのである。
しかも、それだけでなく電動化車両の開発、製造に、トヨタのパワートレーンシステムを活用したいという会社に対しての技術サポートも実施していくという。よもや「EVは市販のモーターと電池を買ってくれば、自動車メーカーでなくても簡単に作れる」という言説をいまだに信じている方はいないだろう。HEVはもちろんBEVだって、パーツがそろえば誰でも作れるわけではないだけに、これは非常に大きい。
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