「できない1%の人」を捨てる組織が弱いワケ 出口治明氏と繁盛店の店主が語る「チーム論」
せかい:この話になると、よく「やるべきタスクが整理されているから、誰でも戦力になれるんですよね」と勘違いされるのですが、タスクが整理されているから、誰でも戦力になれるわけではないんです。
もちろん、未来食堂でのタスクは整理されてはいますが、いちばん大切なのは、全体の中で個々人がどうあるべきかをデザインすること、つまり組織づくり。ここがしっかり機能しないと、ただ人が集まるだけでは、最強のチームにはなりません。
誰かとやっていくには、作業の切り分けが必要になるのですが、意識してふるまわないと、ただ人が集まっているだけの弱いチームになってしまいます。
出口:せかいさんは、人と仲良くする必要はない、ときには距離をとることが大事だとか、人は仕組みで気持ちよくなるとか、言い切っていますよね。
せかい:“誰とでも一緒に働く”というと、笑顔でニコニコ働けばいい、みたいな精神論的なことで終わらせてしまうことが多いのですが、理念には何の意味もないですから。わかりやすい仕組みや使いやすい仕組みをどれだけ作れるかが、勝負を決めるのだと思います。そこを本ではしっかり書きたかった。読者の方に好かれるために“いいこと”だけを書くようなことをしていないので、最初はどこまで書いていいのか、悩んだんです。
出口:書いていいと思います。ここまではっきり書かないと、わからない人が日本には多いように思います。よく、社員の意識を変えて無駄な会議をなくしましょうと、訓示を垂れるような管理者がいますが、そのような管理者は即刻クビにすべきですね。管理者の仕事は、意識を変えることではない。仕組みをつくって意識が変わらざるをえないようにする、それがマネジメントなんですから。
できない1%の人を見捨てない仕組みを作る
出口:仕組みについて、もう少しお聞かせください。
せかい:赤と緑のピーマンの見分けがつかないという「まかない」さんがいらしたんです。あるお皿は赤ピーマンだけだったり、こちらのお皿は緑ばかりだったりと偏りがあったのですが、じつは色盲のため、色の違いがわからずアトランダムに盛り付けていたためだったのですね。そこで、どちらのピーマンも均等に盛り付けられるように、赤いピーマンと緑のピーマンを別々の容器に分けて入れる、という仕組みを作りました。
おかげで、誰もが盛り付けしやすくなりました。誰であれ、そもそも見分ける必要がない作業にできれば、ずっと楽に仕事ができるようになります。
“できない人”だけでなく“できる人”も、できるとはいえ無意識のうちに、作業をこなすには何らかのコストを負担しているのですが、できることを当たり前にしてしまうと、そのことに私たちは気づかない。“できない人”が、その見えないコストに気づかせてくれたのです。
出口:単なる経験に終わらせず、そのときの気づきをベースにして仕組みづくりに落とし込んだところがすごい。不得意なことがある人や能力が高くない人をも生かすという仕組みをつくることは、ビジネスで大いに役に立つと思います。