相田氏と本作との出会いは、まだ『りぼん』副編集長だった2018年5月のこと。「会議で本作の連載のネーム(未完成原稿)を読んだその場の全員が、その規格外な面白さに度肝を抜かれた」(相田氏)。
相田氏いわく、「もちろん、本作品がジェンダーに関する重要な問題提起をしていることは認識していたが、何も社会的な意義があるから『何があろうと連載を続ける』と思ったわけではない。
エンタメとして、王道の少女漫画として面白かった。面白いから、多くの読者に届けるために宣伝にも力を入れようと決意しただけの話」という。
面白い作品だと確信したから、売るために宣伝に力を入れよう――。これは一見当然のように見えるが、現状の『りぼん』が置かれた状況を鑑みるに、そう簡単でもなさそうだ。
平均発行部数は約15分の1に
今年創刊64年目を迎える『りぼん』。小学校低学年から読める『ちゃお』(小学館)やファンタジー色が強い『なかよし』(講談社)などの競合誌と比べて、大人びた恋愛ストーリーを特徴としてきた同誌が最盛期を迎えたのは、1980〜1990年代のこと。
さくらももこ『ちびまる子ちゃん』(1986年~)、吉住渉『ママレード・ボーイ』(1992年~)、矢沢あい『ご近所物語』(1995年~)など、大ヒットタイトルが続々生まれ、1993年末には最高発行部数月間255万部に到達した。
が、現在の平均発行部数は、往時の約15分の1となる月16万5000部。雑誌市場全体が縮小する中でも、落ち込み方はさらに激しい。背景には、「主力読者である小学校高学年女子にYouTubeなどの動画メディアが普及し、漫画を読む習慣自体が減った」(相田氏)という事情がある。
さらに、社内にも強力なライバルが存在する。少年漫画の『週刊少年ジャンプ』だ。ジャンプの読者は、今や半数近くが女性と見られる。その中には、小学生も含まれる。こうした厳しい環境下で、『りぼん』はすでに厚いファン層を持つエースの作家3~4人の連載をまわす、保守的な売り方になっていった。
相田氏は、この状況に危機感を募らせた。
「本来、面白い漫画であるかどうかに、ジャンルは関係ない。部数減を外的環境のせいにするのは簡単だが、近年の『りぼん』は、“りぼんらしさ”を守ろうとするあまり、ジャンルの幅が狭くなってきているように思えた。少年マンガを好きな女の子を含め、誰がよんでも面白いと思ってもらえるような作品を作っていかなくてはいけない」
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