ネオコンの終焉とオバマの外交政策

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オバマ次期大統領に必要な教訓

もう一つのネオコンの傲慢さがもたらした弊害は、民主主義を広めるという考え方にある。今や“民主主義”という言葉は、米国政府のスポークスマンが使ったとき、“新帝国主義的”な意味合いを持つようになってしまっている。

似たような事態は以前にもあった。1930年代や40年代初めに日本が西欧の帝国主義からアジアを“解放する”という名目で壊滅的な戦争を始めた背後には、日本のインテリの理想主義があった。独立を求めてアジア諸国が団結するという理想は悪いものではない。しかし中国や東南アジアで狼藉の限りを尽くした日本帝国軍によって強制された思想は、壊滅的な結果をもたらした。

同様に社会主義も、自由競争を掲げる資本主義から生まれた社会的な不平等を是正するという目的があった。しかし暴力によって社会主義や共産主義の理想を実現しようという試みは、最終的に圧政や大量殺戮をもたらした。そのため東欧などでの多くの国は、社会民主主義さえ懐疑的な目で見るようになっている。

ネオコンは、その名称と異なり、実際には保守主義者ではない。彼らは、“現実主義者”が支持するプラグマティックな外交政策に反対する人々である。代表的な現実主義者、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官が主張した力の均衡に基づく“リアルポリティーク”は、ネオコンの知識人の主な攻撃の標的であった。ネオコンは、海外で積極的に民主主義を普及させることは道徳的に正しいだけでなく、国家利益にもかなうものであると考えていた。

こうした主張には一面の真理がある。リベラルな人々も、イスラム原理主義者のテロは中東に民主主義が存在しないことと関連しているという点で異論を差し挟まない。独裁者を懐柔することで力の均衡を図ろうとする現実主義者の政策には限界があった。

しかし革命は民主主義を実現する最も有効な方法とはいえない。民主主義を推進するために必要なことは、戦いではなく、リベラルな方法を見いだすことである。軍事力を行使するのではなく、国際協調を重視することである。

オバマ次期大統領はネオコンと同じ過ちを繰り返すことはないだろう。しかし彼が外交で成功を収めるためには、壊滅的な政策がもたらした廃墟の中から理想主義の一部を救い出さなければならないだろう。

Ian Buruma
1951年オランダ生まれ。70~75年にライデン大学で中国文学を、75~77年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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