山口周「人を"天才"と安易に呼ぶことの残念さ」

レオナルド・ダ・ヴィンチの知られざる秘密

高位にある権力者からの熱烈な仕事の依頼を無下に断り、あるいは引き受けたとしても興味が失せれば途中で投げ出し、金になる・ならないの判断をすることなく、その日その日で移りゆく興味のままに、科学と芸術、あるいは人文学と技術工学の境界を自由に越境しながら仕事に没頭するレオナルドのライフスタイルは、私たちが一般的に考える「優れた人物」の要件とは著しくかけ離れたものに思えるかもしれない。

しかし、そのような人物が歴史上最も高い生産性を示しているのだとすれば、私たちはこれまでの考え方を見直すべきなのかもしれない。

「天才だから」の一言で片付けない

最後に、そもそもレオナルドは「成功者」なのだろうか。

正直なところ、私にはよくわからない。晩年はフランス王から十分な俸給と居城を与えられ、何不自由ない生活の中で優雅に没したことを考えれば、間違いなく「幸福な晩年だった」ということはできるだろう。しかし「成功者」と言えるかどうか。

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おそらくは本人も大きな混乱と矛盾の中で苦しんだのだろうと思う。レオナルドは自身の心の闇を垣間見せるようなメモを数多く残している。

代表的なのは「教えてくれ、今までにやり遂げた仕事があるのか」という趣旨のものだ。これほどまでに高い評価を得たのであれば、それは間違いなく成功だ、という意見もあるだろう。

しかし、同時にまた間違いなく言えるのは、レオナルドは自身について悩みを抱えながら生きたということだ。著者のアイザックソンが冒頭に指摘しているとおり、レオナルドを天才という一言で片付けず、人間としてどのように悩み、考え、行動してきたのかを知ることは、現代を生きる私たちにとっても大きな示唆を与えてくれることと思う。

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