「機械に大半の仕事を奪われる」説の大きな誤解 日本人が「デジタル失業」しにくい5つの理由

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これまでの「AIによる職業消滅論」の多くでは、AIやロボット技術が、想定されるかぎり進化することを前提に、職業への影響を予測している。しかし、技術進化は一足飛びには進みにくい。その実現のスピードに加え、コストとの見合いで導入するメリットがあるかが、普及のカギを握る。それが③「技術進化&コストの影響」である。

④「人材需給の影響」はどうか。今でも現実社会で、デジタル化やそれにAI技術を組み合わせた自動化は普及し始めている。だが、その中心はサービス業や建設業をはじめとする人材不足が深刻な業界。いくら自動化の技術開発が進んでも、余剰人員を抱える業界や企業ほど「まずは人にやってもらう」という動機が働きやすい。よほど低コスト化が進まない限り、自動化が進みにくい分野があるのが現実だ。

最後に⑤「社会制度や慣習の影響」も現実社会では避けて通れない。役所や金融機関のサービス、企業間契約などでは、人と対面し、捺印した書類で手続きするといったアナログなルール、慣習が多く残る。デジタル化に一気に舵を切ろうにも、デジタルデバイド(情報格差)の影響を危惧する声などが上がり、一足飛びに進めにくい分野がある。

身の回りの環境変化への想像が不可欠

専門家の間では、「こうした現実をすべて踏まえた定量的予測は不可能」というのが常識。現実社会は複雑だからこそ、ある特定の条件下に絞った形で、定量予測が行われてきた経緯がある。

すでに単純な定型業務におけるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入など、人の仕事の機械への代替は進んでいる。そうした変化によって雇用に影響が及ぶ人も広がるだろう。デジタル失業が発生しない、というわけではない。

ただ実際に起こるのは、職業そのものの消滅というより、タスクベースでの増減という変化が大半だろう。変化の様相は職業によって異なる。だからこそ職業の未来は個別に、かつタスクベースで、さらに社会変化も含めて見通すことが重要になる。

現実にどんな事態が発生するのか――。各個人が身の回りの環境変化に想像をめぐらせることが不可欠といえる。

『週刊東洋経済』4月13日号(4月8日発売)の特集は「AI時代に食える仕事 食えない仕事」です。
許斐 健太 『会社四季報 業界地図』 編集長

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このみ けんた / Kenta Konomi

慶応義塾大学卒業後、PHP研究所を経て東洋経済新報社に入社。電機業界担当記者や『業界地図』編集長を経て、『週刊東洋経済』副編集長として『「食える子」を育てる』『ライフ・シフト実践編』などを担当。2021年秋リリースの「業界地図デジタル」プロジェクトマネジャー、2022年秋より「業界地図」編集長を兼務。

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森川 郁子 東洋経済 記者

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もりかわ いくこ / Ikuko Morikawa

自動車・部品メーカー担当。慶応義塾大学法学部在学中、メキシコ国立自治大学に留学。2017年、東洋経済新報社入社。趣味はドライブと都内の芝生探し、休日は鈍行列車の旅に出ている。

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