「機械に大半の仕事を奪われる」説の大きな誤解 日本人が「デジタル失業」しにくい5つの理由

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ただその後、専門家の間では同リポートの問題点を指摘する声が次々と上がった。経済産業研究所の岩本晃一上席研究員は、「47%という数値は特殊な前提での予測。雇用の未来の研究では、その後に研究結果を発表した独ZEW研究所のメラニー・アーンツ氏らの貢献のほうが大きい」と指摘する。

アーンツ氏らの研究結果の特徴は、オズボーン氏らのリポートが考慮していなかった「タスクベース」の変化を踏まえたもの。本来、仕事はさまざまな業務(タスク)の積み重ねである。いくら自動化が進んでも、実際には職業そのものが機械に置き換わるわけではない。その一部のタスクが置き換わっていくのだ。

OECD(経済協力開発機構)は、アーンツ氏らのそうした現実を踏まえた研究結果を基に2016年にリポートを発表。そこでは、自動化の可能性が7割を超える職業はOECD21カ国平均で「9%」という予測値が掲載された。

「未来の仕事のデータは存在しない」

しかし、アーンツ氏らの研究結果にも加味されていない要素がある。その1つは「現実社会では新しい仕事が生まれる」ことである。前述のタクシー運転手の「カメラを通じて監視する仕事」がこれに当たる。

野村総研リポートを担当した上田恵陶奈上級コンサルタントも、「未来の仕事のデータは存在しないため、調査においては、現状の仕事が未来永劫変わらないとの前提を置いた。しかし、時代とともに仕事は変わる。定量的予測にはどうしても限界がある」と話す。それでも調査を実施した狙いについて、「将来の労働力不足を踏まえ、自動化による仕事の代替の可能性を検証しようとした」(上田氏)と振り返る。

では実際、職業の自動化による影響はどのように表れるのか――。現実社会を見据えると、上記の①「職業はタスクベースで変化する」、②「新しい仕事が生まれる」という要素以外にも、これまでの定量予測には含まれていない3つの要素がある。それは③「技術進化&コストの影響」、④「人材需給の影響」、そして⑤「社会制度や慣習の影響」である。

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