日本人は経済を「信仰の対象」にしてしまった アトキンソン×北野唯我「日本の生産性」対談
北野:働き方改革はどうでしょうか。働き方改革をすごく端的に言うと、働く時間を短くしようということだと解釈されがちですが、以前、労働時間と労働生産性って関係ないんじゃないかという分析をしたことがあります。
『日本人の勝算』には働き方改革については触れられていません。アトキンソンさんは今、日本で盛んに言われている働き方改革をどう解釈していますか。
アトキンソン:今の日本の低い生産性の原因は、労使のどちらにあるのかという問題があります。今までの国内の議論は「問題は労働者にある」という結論でした。だから「働き方改革」とともに「労働市場の流動化」や「解雇規制の緩和」などが議論されています。しかし、解雇規制と生産性の相関性は、日本で思われているほど高くはありません。
考えてみれば当たり前です。そもそも本当に「解雇したい人」の数は当然、少ない。しかも、あまり使えない人ですよね。使えない人を流動化したからといって、その人がいきなり他の会社でとんでもない実績を出すようになるかといったら、それは期待薄ではないでしょうか。
データを分析してみると、日本の場合、人材の評価は悪いわけではないし、物的生産性・人的生産性のところに問題は確認できない。しかし、経営者の生産性を測る全要素生産性の部分は著しく低いのです。日本の生産性問題の本質は労働者ではなくて、経営者にあります。
働き方改革を否定するつもりはないですが、経営者の改革こそ重要で、それが行われないとむしろ悪い方向に進んでしまうと思います。
経営者と労働者は「螺旋階段」のように変わっていく
北野:以前『転職の思考法』という本を書いたのですが、この本では別に転職を勧めているわけではなく、いつでも転職できる自分を持っていたほうが結果的に生産性が上がるよということを主張しています。
先日、トヨタの社長が社内向けのメッセージを公開して、そこでまったく同じようなことを言っていたのを発見しました。豊田章男さんが「皆さんはトヨタの看板を外してもちゃんと戦えるように市場価値をつけてください。そんな価値の高い皆さんが、それでも選んでくれる会社を私たちは作っていきます」ということ言っていて、「アレ、自分の本を読んでくれたのかな」と一瞬思ったりしたのですが(笑)。
私はいつも、物事は「螺旋階段」のように変わっていくと思っています。雇用の問題でいうと、個人側とシステム側(雇用主)が順にくるくると変わっていくのではないかと。
『転職の思考法』では転職のカードをみんなに配ることによって、企業側や経営者に「このままではダメなんだ」と、昭和型の雇用のシステムや考え方を改めてもらうのが目的でした。続く『天才を殺す凡人』は組織力学からみた、イノベーション論を問うた。次に変わるのは、組織のほうだと思ったからです。
トヨタ以外にも三井物産や他の大企業でも同じようなことを言い始めていて、少し変わりつつあるという感覚を覚えています。
アトキンソン:「螺旋階段」というのはおっしゃるとおりです。北野さんは労働者を起点に螺旋階段を上ろうとされていますが、私は経営者を起点に考えています。
まずは経営者に、生産性向上のインセンティブを与えなければならない。そのために最低賃金を継続的に引き上げるべきです。この政策が実現したら、経営者からのプレッシャーが強まるはずですから、次は労働者のスキルアップが不可欠になります。
いずれにしても、そうやって「螺旋階段」のように両者がレベルアップし、「信仰」が払拭されれば、日本人にもまだまだ「勝算」があると考えています。
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