日本人は経済を「信仰の対象」にしてしまった アトキンソン×北野唯我「日本の生産性」対談
北野:私は、伸びている会社という見方だけではなく、伸びている事業という視点で見たほうがいいと、学生にアドバイスしています。大きい会社の中でも伸びている事業部もあれば、そうでない事業部もありますから。会社とは「幻想」であり、実態は「事業」ですからね。
採用についてはどうでしょうか。経団連の中西宏明会長が、一括採用はもう無理だということで、経団連では解禁日をもうけることをやめました。しかし、それにも反発があって、結局また一括採用に戻ろうとしている流れもあります。
「株式会社日本」のグローバル戦略で見たら、通年採用にするしかない。だから、中西会長はああいうことを言い出したんだと思います。一方、現場からみれば、一括採用のほうが楽。現状は、トップと現場にギャップがあるように見えます。アトキンソンさんは、この点をどうとらえていますか。
アトキンソン:日本では、若い人がどうのこうのという話がものすごく多いですね。これもまた、人口増加時代にできあがった「信仰」の1つだと思います。
今後、若い人の数はどんどん減っていきます。一方、仮に会社の数が減らないとすると、会社の数と子どもの数のつり合いがどんどんとれなくなるので、極論を言えば通年でも一括でもどちらでもでもいい、大差ないと考えています。
北野:私は一括よりも、年に2~3回山を作るのがいいと思っています。その理由は「明らかに損を被る人がいるから」。たとえば留学組、海外から戻ってくる人は、大抵、就職活動が終わってしまっているので。すなわち全体最適と部分最適が調和するのが、この年2〜3回の採用活動だと思っています。
会社員は「40歳でクビ」にすべき?
北野:ただ、ご指摘のとおり、人口構成を見る限り若い人よりも40歳以上の人たちのほうが課題として大きいですね。リカレント教育とか、40歳定年制とか、シニア層の雇用の問題とか、何かご意見はありますか?
アトキンソン:極論を言うなら、40歳前後で一度全員クビにしたほうがいいと思います。
昔、年寄りは貴重品でした。過去の経緯やこれまでのやり方を知っている、数少ない存在だったからです。
しかし、今はまったく貴重品ではなくなりました。本もあるし、ネットもある。過去についての知識に、希少価値がなくなったのです。
私が大学生の時、入学して最初に習うのが、図書館での本の探し方でした。データベースがなかったので、ぜんぶ紙のカードで検索していた。図書館で働いている人の中には、それを暗記している人がいて、無茶苦茶「貴重品」として重宝されていました。今はただ、データベースを検索すればいいだけです。
つまり、そういう「知っている人」こそが貴重品だった。弁護士もそうですね。昔は、経験を積んでいる人の価値が高かった。いまはそうではないのですから、40歳くらいで一度、全員辞めてもらうという選択肢も十分ありえます。