運賃高すぎ北総線裁判、驚きの「住民敗訴」判決 4年半審議の結論は「原告に訴える資格なし」
行政処分に対する取り消しなどを求めて裁判を行う場合、行政事件訴訟法が適用されるが、通常の裁判所に民事裁判として提訴するのが日本の仕組みだ。その際に原告適格、すなわち訴える資格があるか否かが審理される。例えば、運賃認可を申請した鉄道事業者が認可運賃(現在は上限運賃の認可)に不服があり、その処分の取り消しを求めて国(国交省)に訴訟を起こした場合や、その鉄道事業者と競争関係にある鉄道事業者が訴訟を起こした場合に、原告適格を疑われることはない。
問題は利用者だ。運賃認可申請した事業者とそれに行政処分(運賃認可決定)を行った国の関係からみると第三者であり、また競争事業者に比べ、圧倒的に数が多く、一回でもきっぷを買ったことがある者も利用者であると主張される可能性もあるから、裁判所、国は利用者の原告適格を否定あるいは狭く解釈してきた。
行政事件訴訟法第9条は「法律上の利益を有する者」に限って取り消しの訴えを起こせるとしている。この意味は、国交省の認可により決まった運賃が不当に高いと利用者が主張した場合に、それが利用者の法律上の利益の侵害にあたるかどうかということだ。第三者としての利用者の利益は政策遂行の結果得られる「反射的利益」という考えが一般的であり、原告適格が否定されてきた。
有名な「近鉄特急料金訴訟」
1982年に大阪地裁で判決が下された近鉄特急料金訴訟は、近鉄特急の利用者が特急料金の認可をめぐり、その認可の取り消し等を求めた訴訟である。行政事件訴訟法の原告適格以外に争点もあったが、大阪地裁は原告適格を認めた。その後、原告・被告双方が大阪高裁に控訴した。大阪高裁は1984年に、利用者の利益は公益保護の一環として実現されるとみるべきで、沿線在住者や定期券を持つ利用者であっても、原告適格はないとして原告の控訴を棄却した。原告側は最高裁判所に上告したが、最高裁は1989年に控訴審の判断を支持して上告を棄却し、確定した。
これに対して、北総線第一次訴訟の東京地裁判決(2013年3月)では「少なくとも居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的に鉄道を利用している者」には原告適格を認めた(本案では敗訴し、原告が控訴。控訴審でも原告適格は認められたが本案では敗訴。原告が最高裁に上告したが棄却)。近鉄特急料金訴訟のあと、行政事件訴訟法が改正されて原告適格が広がる余地が生まれたことも影響していると思われる。
そこで、印西市議であり、地元で塾経営を営む山本清氏は、長男、次男が北総線の通学定期券を購入して大学に通学しており、その費用を負担するとともに、自らも日常的に利用しているとして、前述のように消費税が5%から8%になったときの国交省の運賃認可が違法であるとして、その取り消しを求めて2014年9月に東京地裁に提訴した。山本氏本人と長男、次男の3名が原告となった。これが北総線第二次訴訟である。
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