靖国参拝で露呈した、戦略なき安倍外交 なぜ中国の仕掛けた「古いワナ」に、自らはまるのか?

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中国「封じ込め」に、政権がすべきこととは何か

こうした議論に対し、「そんなことはない。今回の参拝によって、安倍首相は、長年『押し込まれてきた』日中関係において、得点をあげることで、不均衡なパワーバランスを『押し戻した』。これは大きな利益だ」という意見があるかもしれない。

だが、それは根本的に間違っている。もし、仮に今回大きなリアクションが起きなくても、見えない形で蓄積され、いずれどこかで大きなうねりになるだろう。

では、日本はどうすればいいのか。現状の中国に対する国際社会の共通認識は「力を蓄えた新興勢力としての中国が、法や慣習を無視するか、軽視しながら現状の世界のパワーバランスを変えようとしている」というものだ。

そうであるなら、「台頭する中国」にストレスをためている日本がすべきこととは何か。それは何も「安倍首相が靖国を参拝する」ことではない。第2次世界大戦後、戦争をせずに世界で屈指の繁栄を築いてきた日本が、その繁栄を現状の中国と比較しながら、国際社会に大きく問えばいいのだ。それが、現状の中国の態度を変えさせる正しい手段だ。

それなのに、なぜ、中国が明確な意図をもって仕掛けた「古い靖国のワナ」にはまってしまい、「過去の日本」という顔をわざわざ自ら見せるような愚行を犯すのか。私には理解できない。

しかも、今回の安倍首相の靖国参拝で、政権の日中関係に対する認識の甘さも完全に露呈した。靖国問題は深刻な問題だが、実は靖国云々でとどまっているうちは、まだ「安心できる」のである。小泉元首相が靖国を参拝した2006年頃はこうした段階だったが、いまは尖閣諸島で一触即発状態という、はるかに深刻な事態になっている。今回の参拝をきっかけに、危機が高まったとき、双方が「危ない。このままでは戦争に発展する」と考え、安全装置としての話し合いの場をもてるのかどうか。現状は、きわめて憂慮すべき状況だ。

富坂 聰 ジャーナリスト・拓殖大学教授

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とみさか・さとし / Satoshi Tomisaka

中国ウォッチャーとしては現代屈指の一人。1964年愛知県生まれ。北京大学中文科中退。週刊ポスト、週刊文春などで名を馳せたのち、独立。中国の内側に深く食い込んだジャーナリストとして数々のスクープを報道。2014年より、拓殖大学教授。

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