最速の特急「はくたか」を失った北越急行の今 かつての大動脈は「地域密着」でどう稼ぐか
そうした環境の中で、多くのローカル線で取り組んでいるのが観光だ。特別な観光列車をしつらえて車内で食事を提供したり、沿線の名物を楽しませるようなサービスをしたりと、遠方から客を集めることに力を注ぐ。ほくほく線でもそうした取り組みは進めているのか。
大谷さんに聞くと、「今は観光じゃない」と意外な返事が戻ってきた。
「『はくたか』がなくなって赤字になるぞというときに、『観光列車を走らせたらいいんじゃないか』という話もあったんです。でも、私は違うと。観光をやる前に、まずは地域の皆様に愛される鉄道になることが第一だと思うんです。そうなってからはじめて、観光をやらないと中途半端になってしまうのでは」(大谷さん)
実際、観光列車が成功している路線では、沿線地域の人々のもてなしもあわせて楽しまれている傾向が強い。“わが町の鉄道”としての愛着がわざわざ乗りに来る人を喜ばせたいという思いにつながり、そして観光列車の満足度向上に貢献している。
まず沿線住民に親しんでもらう
対して北越急行ほくほく線は、開業してから20年ちょっとの歴史の浅い鉄道路線。学生時代に通学で利用したことがある人もせいぜい30代で、大半の沿線住民にとって“なじみのない鉄道”でもあるのだ。これまでの主力だった「はくたか」の利用者が沿線には降りない“通過客”ばかりでもあるし、ほくほく線への愛着がないのも致し方ないところだろう。
そこで北越急行では、表定速度が時速約100kmという「スノーラビット」など輸送サービスの向上はもちろんのこと、沿線住民を楽しませることを主眼においたイベント列車も走らせている。地元ベーカリーのパンを車内で販売する列車などもそうした取り組みのひとつだ。
「ほくほく線を日常的に利用していない方にも、少しでも親しみを持っていただければ。そうして時間はかかってもほくほく線を“わが町の鉄道”として愛していただけるように。もちろん観光も大事ですが、第一に地域の鉄道としてどうあるべきかを考える必要があると思っています」(大谷さん)
観光客への対応にも余念はない。トンネルの多いほくほく線内を少しでも楽しんでもらうべく、車内で映像を上映する「ゆめぞら」の運行。また、十日町で3年に1度行われる芸術祭「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」でも前回の2018年には臨時列車やラッピング車両を運行している。
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