孤独死の現場に見える「生きづらい現代」の断面 日本で「特殊清掃人」が増え続ける重い意味

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大家の話によると、男性は若い頃に地方から上京してきたものの、人間関係を築くのが下手で、仕事が長続きせず、アルバイトで食いつないでいたらしい。

「孤独死した人は、みんな恐らく根はいい人なんだと思う。人をだましたりとかは絶対できない人。だから、同時に自分にウソがつけなくてすごく苦しくなってしまう。悩んでそれが物凄いストレスになっちゃう。自分はこれでいいのかという、罪悪感を抱えているの。

ずるくないから悩むんだよね。きっと世渡りは上手じゃない。その分、人に正直だと思うし、自分に正直でありたいと思っている。でも、社会を優先させなきゃいけないところがあったり、人を立てなきゃいけないところってあったりするでしょ。それに矛盾を感じてしまって、自分を許せてない人じゃないかなって思うよ」

真面目な人間だからこその、生きづらさ

男性もきっとそうだったのではないかと、上東は考えている。

「世の中、みんな華やかさを求める人が多いじゃない。成功とか、お金とかさ。華やかさを求めない人は変わった人ってレッテルを貼られる。俺も変わってるって言われるんだけどさ。自己肯定感のない人って多いよね。

想像だけど、男性は社会に苦しんでたと思うよ。家ではゴミ屋敷で、ルールも守らなくて、やりたい放題じゃん。他方で、社会に一生懸命合わせようとするから、すごく生きづらかったんだと思う。

何もかも世の中に合わせなければという発想を捨てれば、もっと楽な生き方があったんじゃないかって思うんだよね。でも、男性も僕も、そうなるか、ならないかは、紙一重だったと思うよ」

上東自身、過去に生きづらさで苦しんだことがあり、うまく人間関係を築けない人や生きづらい人の気持ちに寄り添うことができる。そして、そこに共感できる優しい人柄の持ち主だ。だから特殊清掃という仕事に携わっているのだと私は感じた。

「特殊清掃をやっていてきついのは、その人の内面がわかっちゃうこと。ペットボトルひとつからでも、その人の苦しみが見えちゃうんだよね」

『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

上東は、そう言って静かに微笑む。

孤独死の現場を長年取材してきたが、生きづらさと孤独死は、密接な関連があると感じることが多い。孤独死の現場を取材していると、離婚や死別、パワハラなど、人生の重要な局面で力尽き、立ち上がれなくなった人の姿を目の当たりにする。その結果、周囲から孤立し、孤独死しているケースが多いのだ。

特殊清掃業者たちは日本を侵食する、孤立という病の犠牲者たちを、1人また1人と見送っている立会人のようである。増え続ける立会人は、日本が世界的な超孤独死社会へと歩を進める転換点にいることを自覚している時代の証言者といえるかもしれない。

菅野 久美子 ノンフィクション作家

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かんの・くみこ / Kumiko Kanno

1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社で編集者を経て、2005年よりフリーライターに。単著に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『孤独死大国』(双葉社)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(KADOKAWA)『母を捨てる』(プレジデント社)など。

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