孤独死の現場に見える「生きづらい現代」の断面 日本で「特殊清掃人」が増え続ける重い意味
2018年5月14日付の毎日新聞によると、5000社以上が加入している特殊清掃の業界団体である「事件現場特殊清掃センター」が、民間資格である「事件現場特殊清掃士」の認定制度の施行を始めた2013年から、5年で15倍に膨らんでいるという。
孤独死が発生すると、近隣住民はその強烈な臭いに慌てふためき、大騒ぎとなる。また、マンションの管理会社や大家はその資産価値の下落を恐れ、すぐに臭いを消してくれと、彼らに出動を依頼する。
上東は、乱雑に転がっていたペットボトルの異様な臭いを放つ液体が、この部屋で1カ月前に亡くなった住人の男性(65歳)の尿だというのにすぐ気づいた。そう、男性はこの焼酎のペットボトルに、何十本、いや、何百本も自らの尿をためこんでいたのだ。
こんもりとしたゴミの山の中から、尿入りペットボトルがニョキッと斜めに頭を出していた。そして、どこにもエアコンはない。
部屋の様子には人間性が現れる
上東によると、この部屋を借りていた住人はもともと糖尿病の気があり、65歳で心臓発作で亡くなり、死後1日で勤務先の上司によって発見された。
「何らかの持病があったにせよ、この人の死因は暑さが関連してるだろうね。これだけの暑さだと、ゴミも相当な熱を持つからね。サーモグラフィーで見ればわかると思うけれど、この部屋は夜でもかなりの温度だったと思う。よく、火事にならなかったよね。
部屋ってその人のすべてが現れるの。心疾患系にかかった人は、まずリビングから汚れてくることがほとんどだね。リビングって、いわば心臓部分ですべての部屋につながるでしょ。逆に精神が病みだすと、キッチンとか水回りが汚くなってくるんだ」
高温注意情報が連日流れる暑さの中、男性は凄まじい尿臭に包まれたゴミの山の中に、エアコンもなく、ただ体を横たえていた。
上東は顔から滝のような汗を滴らせながらも、和室の壁際にあるタンスに目をつけ、上段に手をかけ、中のものを引っ張り出していく。
孤独死の遺族は、保険証券、現金、通帳、不動産や土地の権利証など、金銭にまつわるものを求めることが多い。故人と家族はとうにつながりが切れていることの表れだ。もし親交があれば、写真や手紙といった思い出の品が望まれることもあるが、孤独死した場合はまれだ。
このように孤独死したケースは、遺品のすべてに臭いが付着していることが多く、ほとんどはゴミとして処分せざるをえなくなる。
上東は尿の入ったペットボトルのキャップをすべて開けると、キッチンに持っていって、ドボドボドボドボとシンクに流す。
上東が手前のドアを開けると、黒ずんだ便器が見えた。男性は、トイレが詰まって使えなくなると、ペットボトルに自らの尿をためていったのだろう。
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