怒りの矛先を「他人にぶつける」人のヤバい心理 恐怖と無力感が「弱者への八つ当たり」を生む

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なぜ夫に対して怒りを出せないのかといえば、怖いからだ。何よりも怖いのは、変に問い詰めると、夫が逆ギレして「じゃあ別れる」と言い出すことだという。この女性には経済力がないので、離婚したら経済的に惨めな状況に陥るのではないかという恐怖が非常に強い。

また、夫に怒ったところで何も変わらないという無力感もあるようだ。経済力がない妻にとって離婚という選択肢は考えられないことを夫はよく認識しているのか、高をくくっているふしがある。妻のほうも、たとえ夫に怒りをぶつけても「暖簾(のれん)に腕押し」と思っており、じっと我慢して怒りをため込むしかない。

さらに、現在の状況から抜け出すために離婚に向けて動き出すのも、経済的自立のための努力をするのも面倒くさいという怠慢もあるように見受けられる。

先ほど述べたように離婚したら経済的に困窮するのではないかという恐怖が強いので、「ご主人の浮気調査を興信所に依頼してみては。証拠をそろえて突きつければ、かなりの額の慰謝料と養育費をもらえるはず」と私が助言すると、「そんなことをするのは面倒くさい」という答えが返ってきた。それだけでなく、弁護士に相談するのも、夫と話し合うのも、子どもと実家の両親に事情を説明するのも、すべてが面倒くさいという。

怒りは排泄物のようなもの

このように何をするのも面倒くさいと感じるのは、恐怖と無力感のせいで、どうせ何をやっても無駄と感じているからかもしれない。

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もっとも、怒りの原因になった夫の問題が自然に解決するわけでも、消えてなくなるわけでもない。だから、込み上げてくる怒りを自分ではどうすることもできず、愚痴をこぼしたり、店員に八つ当たりしたりして発散するしかないのだろう。

作家の寺山修司は、「醒めて、怒れ!」というエッセーで「怒りというのは排泄物のようなもので、一定量おなかのなかにたまるとどうしても吐きださざるを得なくなる」と述べているが、そのとおりだ。

ため込んだ怒りをどこかで出さないと、自分自身が耐えられなくなるので、「置き換え」によって誰かに怒りをぶつけるしかない。その際、怒りの矛先を向けられるのは、派遣社員や店員など、決まって弱い立場の人なのである。

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