「ブレグジット」はなぜこれほど迷走するのか くすぶる「合意なきEU離脱」の偶発リスク

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最悪の場合、29日までに期限延期が決まらず、「合意なき離脱」に陥る可能性もなお残っている。合意なき離脱となれば、2020年末までイギリスがEUの単一市場、関税同盟に残ったまま新たな通商関係を模索する「移行期間」もなく、ただちにEUから離脱することになる。そうすると、これまでなかった税関手続きなどがいきなり発生し、EUからの輸入の遅れによる商品の品切れや、関税復活による物価の高騰など、生活や経済に多大な影響が出る可能性が高い。EU側も「合意なき離脱」の回避方針では一致しているが、交渉が難航して偶発的に一線を越えてしまうリスクはくすぶっている。

国民投票やり直しというシナリオも完全には消えていない。イギリス議会では14日に国民投票を実施する議員提案も出され、否決された。国民投票を2回行うことについては民主主義の観点から抵抗は強い。ただ、ブレグジットをめぐる混迷で、経済界や一般国民の経済面での危機感は確実に高まっている。ホンダのイギリス工場閉鎖発表は従来からの採算低迷が最大理由としても、国民の大半はブレグジットの影響と受け止めており、雇用や税収など経済的損失の象徴ともなっている。ほかの大手メーカーの生産縮小計画も相次いでいるほか、イギリス最大の強みである金融業界においてもほかのEU諸国への一部機能の移転が進んでおり、国際金融センター・ロンドンの地盤沈下が危惧されている。

こうした経済界の危機感や世論の変化を背景に、イギリス議会内で国民投票を再実施せよとの機運が醸成される可能性は否定できない。議会解散で総選挙となり、労働党が勝利すれば、その可能性が高まる。ただ、再実施には法的手続きや準備に相当の時間が必要で、離脱期限をより長く延長する必要がある。仮に2度目の国民投票の結果、EU残留支持が多数となれば、ブレグジット撤回へ。まさに大どんでん返しである。

「不確実性」の早期払拭が必要

欧州情勢に詳しい日本経済研究センターの林秀毅・特任研究員はブレグジットの最終的な結末として、「ノルウェー型」の離脱で合意するか、離脱撤回かのどちらかではないかと見る。ノルウェー型というのは、EUには加盟しないが、欧州経済領域(EEA)に加盟することにより、従来同様に単一市場への自由なアクセス権と移動の自由を確保する選択だ。ただ、EUの政策決定に関与できないにも関わらず、EU予算への拠出を求められる。強硬離脱派からの反発は強いが、「企業のサプライチェーンなど経済への影響を考えれば、離脱の中でも現実的な選択」(林氏)と見られる。

離脱を撤回すれば、現状維持となり、日本を含めた世界の産業界や金融市場が歓迎することは間違いない。イギリスはこうした結論をできるだけ早く世界に示すことにより、不確実性を払拭することが何より必要だ。

欧州ではブレグジットだけではなく、イタリアなどにおけるポピュリズム政党の勢力拡大やドイツを含む経済失速など懸念材料が山積している。ベルリンの壁崩壊から30年、共通通貨ユーロ発足から20年の節目にある今年は、欧州全体にとっても分裂解体と地盤沈下の危機を食い止められるかの重大な正念場となる。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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