「ブレグジット」はなぜこれほど迷走するのか くすぶる「合意なきEU離脱」の偶発リスク

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なぜ、これほどまで迷走しているのか。イギリス議会下院が1月に続いて大差で離脱協定案を否決した最大の理由が、アイルランド国境管理をめぐる「バックストップ(安全網)」の問題だ。イギリスがEUから離脱すれば、イギリス領北アイルランドとEU加盟国アイルランドとの国境で何らかの国境管理が必要となるが、検問所などの厳格な国境を設けないことまではイギリスとEUの間で合意している。1960~90年代の北アイルランド紛争のような悲惨な宗派対立の再発を防ぐためだ。ただ、国境管理の具体策については決まっておらず、今後の懸案となっている。

離脱協定案では2020年末までの移行期間の間に国境管理の具体策が決まらない場合、保険的な措置として、具体策が見つかるまで北アイルランドを含むイギリス全体がEUの関税同盟に残ることとした。これがバックストップである。だが、これではEUから離脱したはずなのに、第三国との自由な通商交渉が行えず、半永久的にEUの「属国的状況」が続くことになるとして、議会は1月15日に大差で協定案を否決。そしてメイ首相は3月12日の再採決直前、安全網を時限的な措置とする協定案でEUと合意したが、その法的保証が不十分として再び議会に否決されたのだ。

今後想定されるシナリオは

今後はどんな展開が予想されるのか。20日までに行う離脱協定案の再採決を経て、イギリスは離脱延期について21日から始まるEU首脳会議で協議を行う見込みだ。延期にはイギリスを除くEU加盟27カ国の承認が必要で、イギリス議会が「3度目の正直」で協定案を可決すれば、6月末までの延期が承認されるのはほぼ確実。イギリスは延期期間中に法制化作業など必要な手続きを経たうえで6月末にEUを離脱する。

イギリス議会が協定案を再び否決した場合、メイ政権としてはより長期の期限延期をEUに申請すると見られる。ただ、EU側は期限延期の明確な目的を求めており、メイ政権がそれをどう説明するかが問題だ。

可能性としては、現状の協定案のまま、安全網の非永続性に対する法的保証を強化したうえで保守党の強硬離脱派など反対勢力への説得工作を続け、再採決に持ち込むシナリオが考えられる。また、EUの関税同盟や単一市場に残留するなどの穏健な離脱方針に転換し、1~2年といった長期の離脱期限延期で合意したうえでEUとの協議をやり直すというシナリオも想定される。期限延期の場合には、イギリスが5月に欧州議会選挙を実施することをEU側から求められる公算が大きい。

次ページ「合意なき離脱」の最悪シナリオも
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